Creepy Nutsがメジャーデビュー作に込めた“意匠と回答” 高木 "JET" 晋一郎が紐解く
シングルのトップを飾る「メジャーデビュー指南」は、「会話」が表現の肝になっている曲だ。ここ最近、ラッパーに話を訊くと「話芸」というキーワードが出る場合が多い。ラップのアプローチ/構成をブラッシュアップする際に、落語や漫才といった「喋り芸」「話芸」を参考にしようとしているラッパーが以前よりも確実に増えている。いとうせいこうも大意として「長唄を習ってから更にラップ・スキルに説得力が生まれた」と話していたが、日本語をどう表現するか、どう伝えるかに腐心してきた、伝統的な「口話による表現形態」をラップが参考にするのは当然だろう(そもそも、ラップの成立自体が“MASTER OF CEREMONY”を基礎にしているのであるから、根本的に「ラップ」と「話芸」とは切り離せないものだ)。
そういった日本的な話芸、特に落語的な会話スタイルを、意識的に「メジャーデビュー指南」では取り込んでいる。その意味では、ヴァースではいわゆるリズムに分かりやすく載るフロウは採用していない。しかし例えば<先天性><前前前世><整形せえ><決定権>というライミングや、ヒップホップ的な意匠を織り込むことで、日本語話芸を自身のスキルの中にどう取り込むかというチャレンジとして非常に興味深い構成であるし、単純に聴き応えとして面白い。またR-指定とユニット:コッペパンを結成していたKOPERUが、今年リリースしたKOPERU & ISSEIのアルバム『カマトト』で、漫談的な話芸構成を作品に落とし込んでいるという共時性も興味深い。
DJ松永の手がけるトラックも今回お蔵入りとなったバージョンのトラックから差し替わって、ディスコ/ファンク路線に変更された。モーニング娘。「LOVEマシーン」を例示するまでもなく、日本でのヒットの一つの法則の中には「ディスコ路線」があり、その意味でも、この曲のサウンドアプローチは、日本人的な感覚によりフィットしやすくなっている。
そして、この曲でさらに興味深いのは、Creepy Nutsにアドバイス(というよりは「クソバイス」)を与える人間の言葉が、ことごとく「古い」のである。曰く<メジャーでは小奇麗に><メジャーレーベルのゴリ押し><カラオケで歌いやすい曲>……。いわゆる1MC&1シンガー楽曲が流行った時に、数多くのアーティストがそこに巻き込まれ、死屍累々を築いた、悪夢のような「戦略」である。<YouTuberやインスタグラマーの知り合い>という部分に関しても、とどのつまり「有名人の知り合いに宣伝してもらう」という非常に旧来的な手法だ。この曲からは、そういった旧来性を戯画化することで、彼らはそれを超えるという意思を感じるのは、筆者の考え過ぎだろうか。
その意味でも、このシングルは「乗り越える」が一つの大きなテーマとして掲げられている。インディからメジャーというフィールドに進むという道筋も一つの「乗り越え」であるだろうし、<クソバイスを蹴散らす><過去を肯定する>のも乗り越えだろう。DJ松永が童貞を捨てるのが「乗り越え」かどうかは本人に任せる他ないが、この乗り越えの先に見える景色は、彼らにしか描けないものになる。その決意を感じる一作だ。
(文=高木 "JET" 晋一郎)
■リリース情報
『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』
発売:2017年11月8日(水)
価格:完全生産限定盤(Tシャツ付き)¥3,000(税込)※Tシャツは全てLサイズ。
通常盤 ¥1,000(税込)