嵐はまだまだ面白くなるーーアルバム『「 untitled」』ユニット曲で見えた無限の可能性
10月18日にリリースされた嵐の最新アルバム『「 untitled」』が、面白い。これまでの嵐のアルバムには一本筋の通ったテーマがあった。だが、今回は違う。嵐がこれまでに通ってきた、いわば“進化の過程”をなぞるように1曲1曲が異なるテイストのサウンドを繰り広げる。トップアイドルに上りつめた“嵐”という成体を、みずから“未完”だと言い放つ、その覚悟を感じられる一作だ。なかでも通常盤(Disc2)に収められた、ユニット曲は秀逸だ。 これまでアルバムにはソロ曲を収録するのが通例だったが、本作ではその慣習さえも見直されたのだ。各自の持つ個性をシャッフルさせることで、新たな化学反応が起こそうとしたのだろうか。その成果は、期待以上だ。
1曲目に聞こえてくる「バズりNIGHT」は、嵐の遊び心を象徴する1曲。歌うのは、天然コンビと呼ばれている相葉雅紀&大野智、そして2人の前では保護者のような櫻井翔を含めた3人。ノリのいい電子音が聞こえてくると、相葉がアルバム『DIGITALIAN』のソロ曲「Disco Star」で披露したディスコスター様や、大野が前作『Are you Happy?』で見せつけた「Bad boy」を思い出す。それぞれコンサートでは「まさに天才」と呼びたくなるような、独自の世界観が炸裂。櫻井も交えて3人で歌うときにはどんな演出になるのか。そう考えただけでもニヤけてくる。歌詞も<にん にん にん>と大野が主演した映画『忍びの国』、<御意 御意 御意>と相葉が主演したドラマ『貴族探偵』を彷彿とさせるフレーズが続く。<赤巻紙 青巻紙 黄巻紙>と早口言葉が歌詞に組み込まれているのは、櫻井のキャスター業を元ネタにしているのだろうか……と、中毒性のあるサウンドと様々な仕掛けがあって、まさに“ マジやべーぞ”な楽曲だ。
2曲目の「夜の影」は、嵐のクールな一面を象徴する曲。松本潤と二宮和也、そして大野智が歌う。1曲目の「バズりNIGHT」とは同じ夜をテーマにした曲でも、これほど違うセクシーな歌声を披露できるのが大野の表現力の幅広さ。2曲連続で聞くと、そのギャップがより際立つ。そんな嵐の楽曲をメインボーカルとして牽引してきた大野、主旋律を際立たせるハモリを披露する松本、透明感のあるハイトーンボイスの二宮、三者三様の歌声の魅力が遺憾なく発揮されるグルーヴィーなメロディ。3人に共通している演技力の高さは、そのまま歌の世界観を広げる力にもつながっているようだ。抑揚をつけ、優しいウィスパーボイスから力強い低音まで、多彩な歌声は感情豊かなセリフを聞いているかのごとく、楽曲にひとつのストーリーを感じる。<コトバより ほらカラダでSeek>とはかなり大胆なフレーズだが、それも3人が描く恋愛映画のワンシーンのようにスタイリッシュに脳内再生される。大人の色気を放つ、そんな嵐の奥深い魅力に気付かされる1曲だ。
続く「UB」は、嵐が抱く“愛”を歌う曲。長く一緒に過ごした恋人を想像させる歌詞だが、 まるで歌っている二宮と相葉の関係性を歌っているようだ。ジャニーズJr.時代から同じ総武線に乗って、レッスンに通っていたという2人。長く一緒にいると、近くにいることも何も感じなくなっていく。まるで空気のように隣にいることが当たり前になる。だが、それは<当たり前じゃない 今までの日々も>。このフレーズは、初回盤のDVDに収録されたスペシャルメイキングのインタビューで相葉が答えていた「毎年出させてもらってるけど、当たり前じゃないですからね。アルバム出してライブやれるっていうのは」という言葉ともリンクする。そう、この歌は二宮と相葉にとどまらず、嵐の5人のことのようにも、そして嵐とファンのことのようにも聞こえてくるのだ。<We are one 肝心なとこで 一緒だって分かる>同じようにインタビューで櫻井が「 それこそ当たり前になってるけど、当たり前じゃないと思ってるのが、毎年コンサートやれてるって」と答えている部分にも、つながっていることを感じられる。
4曲目は「Come Back」は、嵐の熱情を感じる1曲。歌うのは、松本と櫻井だ。お互いを認め合うからこそ、どこかで負けたくない存在として常に意識している。そんな負けず嫌いな2人が、歌声の拳でスパーリングしている…… そんな熱を「Come Back」からは感じ取れる。近年、松本は嵐のライブの構成全般を手掛けている。その功績を誰よりも称賛しているのが櫻井だ。そんな櫻井は、バラエティ番組のMCやニュース番組のキャスターなど、精力的に活躍の場を広げている。松本は嵐のファンに向けてより深く、櫻井はファンの先にいる視聴者に向けてより広く。2人は異なる主戦場で“嵐”のために闘う、同志なのかもしれない。それぞれのターゲットに向けて全力を尽くしてきた2人が、久しぶりにお互いの力を試すように拳を合わせたら……認め合った者同士だからこそ楽しめるバトルを覗き見した気持ちになるのだ。もちろん、ここから始まる嵐のさらなる進化には、2人の熱情が欠かせないだろう。