阪本奨悟のラブソングにはなぜリアリティがある? 「恋と嘘」歌詞にも表れた“不器用さ”を考察

阪本奨悟のラブソングはなぜリアリティある?

<無言のまま時間だけ過ぎて 氷が融けて/味の消えたアイスティ飲んで 苦笑いした>

 阪本奨悟の新曲「恋と嘘 ~ぎゅっと君の手を~」の冒頭を飾る二行。たった二行だが、デート中と思われる様子の初々しい雰囲気や、不器用な主人公の姿を想像させる秀逸な描写だ。同曲は映画『恋と嘘』挿入歌で、MVには同作のヒロイン・森川葵が出演。阪本と森川によって歌詞のストーリーが再現されている。愚直でぎこちなくもピュアな愛情を描いた楽曲は、緊張気味に手を握る阪本と照れたような森川によるMVも含めて、“政府通知の相手と結婚しなくてはいけない”“自由恋愛禁止”という世界での恋愛をテーマにした映画『恋と嘘』に寄り添っているかのようだ。「僕の青春時代を思い出しながら作らせて頂きました」とコメントしている通り、阪本は福山雅治の原曲をカバーした主題歌「HELLO」とともに甘く切ない“青春”を澄んだボーカルで歌い、作品の世界観を曲を通じて表現している。

 ねごと「空も飛べるはず」(スピッツ)、井上苑子「どんなときも。」(槇原敬之)など昨今、若手ミュージシャンによる90年代楽曲のカバーが盛んに行なわれている。今回阪本が「HELLO」をカバーしたのは、こうした潮流を受けてのものであるだけでなく、福山雅治がプロデュースした前作「鼻声」「しょっぱい涙」に引き続き、福山のスタンスを受け継ぐ存在として大きく羽ばたくためではないだろうか。

 5月に『鼻声 / しょっぱい涙』でメジャーデビューを果たした阪本は、ミュージカル『テニスの王子様』の主演や大河ドラマへの出演といった華々しい経歴を持ちながらも、一度は事務所を辞め、地元へ戻って音楽活動を始めた過去がある。当サイトのインタビューで阪本はその頃を振り返り、「心も体もボロボロでした。寮にも帰らず、門限も守らず、帰って来ても、外に出歩いて遊んでました」と語っていた。福山は阪本をプロデュースするにあたり、“周囲への恩返しとしての継承”だと語っていたそうだが、今回阪本は「HELLO」をカバーしたことで福山からの“継承”を体現していると言えるだろう。

 そんな阪本自身の曲にはまっすぐだが、綺麗事ではなく血の通った言葉が並ぶ。今作「恋と嘘」でも阪本は爽やかな歌声とは裏腹に、<ああ 何でこんなに僕は不器用に生まれたのかな>と時にネガティブな一面を見せる。

<髪型も服も格好つけても/ダメだね>(「鼻声」)

<支え合い 分かち合う そんな世界必要ない 一人でいたい>(「しょっぱい涙」)

 デビュー曲を見ても、そんな赤裸々な思いを描いた歌詞は共通している。「鼻声」「しょっぱい涙」は福山雅治と、「恋と嘘」はいしわたり淳治と共同で作詞を手がけているが、端正な顔立ちでありながら恋や人付き合いに臆病で自信がない、という阪本の不器用さをそれぞれが見事に引き出しており、ストレートなラブソングに留まらない印象だ。

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