2ndアルバム『reALIVE』インタビュー
nowiseeが考え続けた“生きる意味”とプロジェクトの成果「無限ループのようでも楽しむことが大切」
総セールス1500万枚を越える音楽業界の実力派クリエイターたちによって結成され、スマートフォンの専用アプリを通して月に1回MV配信を行なってきた正体不明の6人組メディアミックス型音楽プロジェクトnowisee(ノイズ)。彼らが結成当初からの予定だった2年間におよぶ「52Hz」プロジェクトを終えた。そして前半の12曲をまとめた昨年のCD『掌の戦争』に続いて、後半の13曲をまとめたCD作品『reALIVE』を完成させた。
このnowiseeでは、音楽/映像/ノベル/コミック/ボイスドラマといった様々な要素が連動し、全25曲を通して“sea”という異世界に迷い込んだ人々の心の葛藤と、彼/彼女たちがそれぞれに生きる意味を見つけようともがく壮大なストーリーを展開。謎が謎を呼ぶ物語の行く末に加えて、何よりも楽曲と映像の高いクオリティによって話題を集めてきた。
今回はプロジェクトのひとまずの完了を受けて、リーダーのMinimum Root(Gt)とStrange Octave(Vo)にインタビュー。彼らが過ごした2年間や、その中で豊かに広がっていった「nowisee」の物語について、そしてアルバム『reALIVE』についてじっくりと語ってもらった。(杉山仁)
進めるうちに「nowisee像」が出来上がってきた(Minimum Root)
ーーついにプロジェクトの全曲配信が完了しましたね。ここまでの2年間、短かったと感じていますか? それとも長かったと感じていますか?
Strange Octave(以下、Octave):めちゃくちゃ短かったですね。ビックリしました。特に2年目は、だんだん制作する時間がなくなって、スケジュールが本当にギリギリだったので。
Minimum Root(以下、Root):最初に漠然とアイデアがあったのは5曲で、それも順番に出していったわけではなかったんですよ。だから、毎月新曲をリリースしていた感覚で。リリースまで3週間の時点でもまだ曲が全然出来ていなかったりして、最後の方はミックスをする日が音源の提出日の前日になったりもしていました。
ーー本当にギリギリの作業だったんですね。
Octave:最初から「2年」と決まっていたからできたんだと思いますね。ずっと続くプロジェクトだったら無理ですよ、きっと(笑)。
Root:それはメンバーが欠けていった可能性があるな……(笑)。
ーーそもそも、前半の12曲を『掌の戦争』としてCDにまとめた時点で、このプロジェクトにどんな可能性を感じましたか? 実際にはじめて分かったこともあったと思います。
Root:思っていた通りになったのは、ファンのみんなが必ず「8」が付く日の前日に「明日はnowiseeの日だ」とツイートしてくれたことですね。そうすると、まるで『週刊少年マガジン』や『週刊少年ジャンプ』のように日々の楽しみになる。それが実際にできるんだなと感じました。「これから楽しんでくれる人たちがもっと増えて、nowiseeの日がより大きなものになっていくと面白いだろうな」と、1年目はその可能性をすごく感じていました。
ーー実際にはじめてみて、「待ってくれている人の存在が見えた」ということですね。
Root:それはすごく大きかったと思います。そもそも僕らは、最初はどんな人たちがnowiseeを楽しんでくれているのか分からなかったですから。nowiseeは「バンドで人の人生を体現しよう」「24カ月という決められた時間で、人間の一生を表現しよう」という気持ちではじめたプロジェクトでもあるので、最初の一年目は人で言うと高校生くらいまでの感覚だったんですよ。可能性をいっぱい感じて、「この物語が映画になったら? アニメ化されたら?」と色んなことを想像して、伏線を広げていくような作業だったというか。
Octave:それに対して、「やりたいけどできないこと」や、「今やるべきこと」が具体的に見えてきたのが2年目でした。「これもやりたいけど、今やるべきことじゃないな」とか。
Root:プロジェクトを進めるうちに登場人物たちの人格が形成されて、「nowiseeってこうだよね」と自分たちの中での「nowisee像」が出来上がってきたんですよ。メンバーが6人いるにもかかわらず、まるで全員の頭がひとつになっていくような感覚でした。みんなの頭の中にnowiseeのイメージが出来上がって、共通理解が生まれていった。
Octave:「こんな曲がやりたい」と漠然としたものを伝えると、本当にそれを作ってきてくれる意思疎通があって、それができるメンバーで集まれたことはすごくよかったし、楽しかったです。「会いたい」のアレンジも「こんな曲で、メロディをこういう風にして……」とAdd Fat(Gt)にお願いして作ってもらったりして。あと、1年目の曲は思ったことをパッと書くことが多かったんですよ。でも2年目は色々考えることが増えて、その結果、1曲にかける時間がないにもかかわらず、余計にかけてしまう感じでした。
Root:毎月曲を出すにしても、「一年間で一個のアルバムを切り売りしましょう」という考えだったら、もっと楽だったと思うんですよ。そうすると序盤に山を持ってきて、途中に遊び曲を入れることもできるので。でも俺たちは一カ月で1曲の“シングル”をカットする形だったんで、1年で4年分のシングルを切らなくちゃいけなかった。考え尽くしたものをそれだけ打つとなると、2年目になるとアイデアもどんどんなくなってくる。歌詞を書くのは大変だったと思います。メンバーそれぞれに「nowiseeはこういうものだ」という理解があって、お互いにキャッチボールをしながら広げていった感じですね。
ーーバンド内でN次創作をしているような感じですね、ニュアンス的には。
Root&Octave:ああ!! そうそう!
Octave:nowiseeはあまりバンドメンバーで集まったりはしないんですよ。
Root:たぶん、日本で一番会わないバンド(笑)。それぞれが作業のために会うことはありますけど、一カ月の中で全員が揃うのはほぼ一回で、「こんなに会わないバンドってあるんだな」という感じですね。でも、それぞれがずっとnowiseeのことを考えていて。たとえば残酷tone(Artwork)も、新しく曲ができたらそればかり聴きながらずっと作業をするんで、考えるチャンネルが合ってくるという。そうすると、不思議なんですけどnowiseeの中で人間の体のパーツのようなものが割り振られていくんです。意見が違って時には揉めたりもするけれど、いい意味でちゃんと回答を出せるようになる。信頼があってこそですね。実際、自分が思っていたことを超えてくることが何度もあって、それはすごいなと思いました。
ーー楽曲とともに走り続けたノベルですが、ラストに向けてどんなことを考えていましたか?
Root:プロジェクトを進めている最中に登場人物それぞれの人格が出来上がって、勝手に喋り出してきて。ノベル・チームで話し合っている時も、「この人は絶対にこう言うでしょ」ということが出てきて、それがみんなの共通項になっていくんです。それに、「本当はここまで描きたかったけれど、わけが分からなくなるからやめよう」ということも沢山ありました。物語の行く末をコントロールしてあげなければいけないですから。
Octave:実際、ノベルの終わり方も色々変わりました。実は最初は、この物語は「希望はない」という方向性だったんですよ。「結局死んで、もう戻れないよ」という。
Root:そう。それに加筆して、色んな方向性のアイデアも生まれていきました。でも、実は残酷 toneの映像チームの中のひとりが実際にお父さんを亡くしていて、その彼が物語を読んで「希望がなさすぎて苦しい」と言っていたのを、残酷 toneが気にしていて。僕自身も同級生を含めて人が亡くなる経験を多くしてきたから、それに対して考えてきた人間ではありましたけど、その話をきいたときに「『救いはある』と思える逃げ場があったほうがいいかもしれない」と思ったんです。それで、物語の最後に残る2人を生かすことに決めました。「それぞれが大事なものを失ったけれど、でも、これからも未来があるよ」というエンディングに変わっていったんですよ。
ーーその変化には、毎月楽しみに待ってくれる人たちの存在も関係していたと思いますか?
Octave:そうですね。色々な意見を見て、励まされながらやってきたので。ときにはファンの方から「身内を亡くして、でもこの2年間nowiseeと一緒に生きてきました」というメールをもらうこともありました。「そういう風に思って聴いてくれていたんだな」って、今もそれを思い出すと泣きそうになりますね。そういうものに色々と刺激を受けたり、励まされたりして、私の歌い方もだんだん変わっていったような気がします。