2ndアルバム『reALIVE』インタビュー
nowiseeが考え続けた“生きる意味”とプロジェクトの成果「無限ループのようでも楽しむことが大切」
大事なのは「生きる意味を考えること」(Strange Octave)
ーーサウンド面でも、今回の『reALIVE』に収められた後半の13曲は、前半とは雰囲気が違ってきていますね。前半はドラムンベースやヘヴィなギターを使って、登場人物たちが異世界に巻き込まれていく混とんとした様子を描いていたものの、後半では物語に「異世界での日常」も生まれてくるからか、音楽性がどんどん変わっていった印象があります。
Root:音に関しては、それより「別のこともしてみたい」という気持ちがあったからだと思いますね。前半はドラムンベースをやり過ぎていたし(笑)。あと、12曲をまとめた『掌の戦争』のマスタリングで、Turtle 7th(Key)とChotto Unison(Ba)とAdd Fatは担当してくれたニューヨークSTERLING SOUNDのトム・コインのスタジオに行って、そこで経験したことを後に反映させたんですよ。キックのあるべき場所やマスタリングしてもらった時に感じた問題点を2年目に反映させていった。だから、後半の13曲からは分かりやすくキックの場所が変わりました。芯が低くワイドになった。ギターもアンプも変わりましたね。Chotto Unisonのベースはメンバーで試奏しに一緒に大阪まで行ったりもしました。たまたまインターネットで見つけた機材を「弾きに行こうぜ!」とAdd Fatが言い出して(笑)。
Octave:夜から朝まで曲を一緒に作って、その朝に急遽行くことになりました。私は家に送ってもらえると思って車に乗ったのに、「あれ、高速に乗ったぞ」と(笑)。
ーープロジェクトが進むに連れて、曲に合う音やこだわるポイントが分かってきた、と。後半の13曲の中で、特に印象に残っている楽曲はどれですか?
Octave:わたしは「不染汚(ふぜんな)」。この歌詞は何を書いても当てはまらなくて、これだけで3~4カ月かけました。その結果、以降の曲が大変になってきて……。この曲の歌詞で煮詰まっている時、夜にRootにLINEをしたんですよ。そうしたら「葡萄食べる?」って返信が返ってきて。「食べる」と言ったら、残酷 toneと2人で家の近くまで来てくれて。
Root:その時は「不汚染」の制作準備をしながら、同時にモーションキャプチャーを使った「ヒューマノイド」のMV(物語内で人間が消えていく「拡散」状態の様子が描かれている)を撮っていたんですよ。その撮影が夜に終わって、 MVの作業をしながらOctaveとやりとりをしていたら、追い詰められていて「これはちょっとまずいな」と。それで帰りに残酷 toneを車に乗せて向かいました。「じゃあワインでも買いますか」と店に行って、食べ物を買って。
Octave:近くの公園で蚊に刺されながら喋りました(笑)。その時に「お前がもしやめたければ、やめてもいいよ」と言われて。でもそのとき、「やめたくない」と思ったんです。もともとやめたいとは思っていなかったけど、あの言葉はすごくありがたかったですね。
Root:残酷 toneもMVをいくつも作って、最後は過去のネタとの勝負になってきて。あれもこれもやったと悩んで、徐々にVコン(ビデオコンテ)を作る暇もなくなってきて。終盤は頭にあるものをそのまま具現化しないと間に合わなくなってきました。出来上がる寸前に残酷 toneの家に行って「最後を逆再生にしたらどうかな?」とか修正を頼んで、「え……!」ということもありました。自分でも、大変だとは分かっていたんですけどね(笑)。
Octave:個人的には、「不汚染」のMVは傑作だと思っているんですよ。
Root:あのMVでは「ザ・アニメーション」という動きを極力排除して、一枚一枚の強さを追求したと言っていました。
ーーアニメ的ではなく、 “MV的”にするということですね。
Root:そうです。物語に寄り添わせるMVであっても、見てくれる人にはMVならではの心地よさも伝えないといけないので。
ーー歌詞も、実は作品に完全に寄り添うものにはなっていないと思いました。後半は特に、曲を作っている人のメタな視点が入ってきたりもしています。
Octave:それは意識しました。Rootからも「完全にノベルに寄り添ってしまうと、お前が出なくなるから」と、ずっと言われていたんですよ。それで私は、ノベルのことは深くは考えないようにして、自分中心で書いていきました。
Root:Octaveは真面目で「ノベルのこの要素をきっちり考えよう」というタイプなんで、それだと逃げ場がなくなってネタが尽きてくる。でも、自分たちの中には既に「nowisee脳」のようなものができているわけだから、自由に発想して自分から出てきたものを加えても成立するんじゃないかと思ったんですよ。
Octave:歌詞は基本的に私の目線になっていますけど、「人の葛藤を書く」という意味でnowiseeの物語と繋がる部分を、残酷 toneがうまく見つけて映像で繋げてくれました。全曲思い入れがあるよね。
Root:うん、そうだね。
ーープロジェクト全体の中で重要な曲を挙げるなら、どれを選びますか?
Octave:それはやっぱり「reALIVE」ですね。この曲は候補がいくつかあって、最終的に「残った2曲を繋げれば成立できるから、2曲でひとつにしない?」という話になって。
ーーそれで「re」と「ALIVE」ができて、「reALIVE」にまとまった、と。
Octave:ただ、それがもう最後の配信まで一カ月を切っていたんですよ。だから、「今からは無理だよ」と思う反面「そっちの方が絶対面白いよね」という気持ちもあって……。
ーー「reALIVE」のMVには「氷の心臓」が出てきますね。これはアルバムのジャケットにもなっている通り、このプロジェクトにとって大切なモチーフのように思います。
Octave:「大事なものは儚くて壊れやすい」ということですよね。
Root:nowiseeを立ち上げる頃に話していたことが、形になるとこうなるんだろうな、と。
Octave:実は、最初はガラスかクリスタルの心臓を作ろうと言っていたんですよ。でも、それだと破壊しないと壊れない。それで最終的に「氷の心臓」のアイデアが出てきました。
Root:「時間が進むことによって自然に壊れていくもの」であることが重要だったんですよ。
ーーその雰囲気が、登場人物が自分の心を見つめ直していく物語の内容ともリンクしているわけですね。また、物語の結末が綺麗に答えが出るものではないことも印象的でした。失うものがあって、それでも「やっと気づく(Now I see:nowisee)」こともある、という。
Octave:そうですね。「生きる意味を問う」という壮大なテーマで進めていって、でも私自身もまだ答えは出せていなくて。結局、大事なのは「それを考えること」なのかな、と思うんです。これは残酷 toneが言っていたんですけど、「これからも考えていかなきゃな」と。
Root:たとえば、切羽詰まって苦しい時には水の味がどんなものか考えないけれど、何でもない水が「美味しい」と感じられることもある。葡萄を食べて美味しいなと思うこともそうで、そういう些細な積み重ねが、「生きる意味を問う」ことに繋がると思うんですよ。
Octave:同じ葡萄でも、誰かと一緒に食べたらもっと美味しいかもしれないし。
Root:寿命が尽きても事故で亡くなっても、この世から消えるタイミングを最初から知っている人はいなくて、僕は昔から人って、ずっと後悔しながらこの世から消えてきたんだと思う。だから、僕らが何より伝えたかったのは「生きる意味を見つける」「その答えを見つける」ことではなくて、ひとりの人間の人生のようにそれを求めて走り続けていく姿を、葛藤も含めて受け入れるということなんです。それが出来た人は、きっと自分の人生を好きになってくれるはずだから。
ーー今回のプロジェクトを通して、「自分たちの可能性」や「音楽の届け方」について改めて考えることもあったんじゃないですか?
Octave:そもそも、私は自分の声が最初から好きだったわけじゃないんですよ。でも、nowiseeをはじめて「いい声」だと言ってくれる人が増えて、自分の声の可能性を実感できたし、これからも面白いことがやりたいって思います。昔は自分が喋る声も嫌いだったので。
Root:nowiseeでやってきたことは思い描いているコンテンツの完成形ではまだないですが、たぶん、nowiseeに影響を受けた新しい世代の人たちが、ジャンルの垣根を超えて新しいものを生んでくれることもあると思うんです。これは僕らが諦めたということではなくて、僕らは今までやってきたことを活かしながら、また次の展開に行けたらいいなと思っていて。僕自身もそうですけど、色々なミュージシャンが誰かに影響を受けて、そこからまた色々な芽を出していく。誰かの花粉が自分に届いて、そこで開花をして、それに影響を受けた誰かがまた花を開花させていくーー。僕らが今回クロス・コンテンツの中で新しい形式に挑戦したことで、ここから新しいジャンルや流れができるといいなとは思っています。自分たち自身も得るものがたくさんあったし、苦労も分かったし。その上で、nowiseeという形が出来上がったら、次はそれをぶち壊していくのが僕らの課題でもあるので。
ーーnowiseeというプロジェクト自体がみなさんの色々な解釈によって広がっていって、そこでできたものが、音楽の届け方をより多くの人が考えるきっかけになれば嬉しい、と。
Root:「そうなればいいな」とは思います。「nowiseeは2年で終わってしまうんだ」と思って走ることで、僕らはやり残しはないかつねに考えてやってきて。でも結局最後まで、やってもやってもやり残しはあるんです。結局は今の積み重ねで、明日を信じてコツコツ続けていくしかない。無限ループのようでも、それを楽しむことが大切だということで。だって、苦痛なことでも、後で考えたら楽しかったことってたくさんあるじゃないですか? 学生の頃にすごく優しくて真面目だった先生よりも、やたらと怒る面倒くさい先生の方が久しぶりに会うと自分を覚えていてくれたりもする。何事もなく幸せで波風のない人生で本当の幸せを感じられるかと言ったら……そうではないと思うんです。この2年間「nowiseeの一生」を走り抜けることができたのも、色んなことを乗り越えたこのメンバーだからこそだし、スマートフォンがなければこの形自体ができなかった。自分たちには最高の自信になったし、いい曲を作り出すことについては、誰にも負けないという自負は持っていますよ。
ーーテクノロジーと音楽の融合についてはどんな可能性を感じますか? 今後VRなどを取り入れるアーティストも増えるでしょうし、他にも新たな技術は続々と出てきています。
Root:言っていいのか分からないですけど、実は2年前にnowiseeは一度VRをやっているんですよ。まだ今ほどVRが広まっていない時に、試験映像として、目を向ける方向によってアレンジの組み方が変わる映像を作りました。VRがより普及すれば、そういうものがもっと楽しめる環境が生まれると思います。ただ、それがVRの機器を購入しなければ楽しめないものだと、多くの人には伝わらない。「みんなが持っている何か」でそれができたら、一番面白いと思いますね。そもそもnowiseeも、「多くの人が持っているスマートフォンで展開するプロジェクト」だということが大事だったので。今はVRゴーグルにスマートフォンをセットしてVR体験ができる仕組みもありますが、それがもっと進化して、スマホをだけで体験できるようになれば、もっと面白いことができるとも思う。今VRのものを作って、誰もが楽しめるわけではない世界が生まれるのはもったいないと思うので。
ーー仮に技術的に可能でも、多くの人に開かれたものになることは重要ですよね。
Root:そうですね。もしAIがより普及したら、『52Hz』の登場人物全員にAIを入れても面白いかもしれない。「なんかチアキ、どんどんグレてるぞ」とか(笑)。それが簡単にできる時代はきっと来ると思うし、僕らもそういうことが面白いなという発想が原点になので、音楽の届け方の可能性についてはずっと考えています。だからこそ活動を25曲で終えた後、一度自分のツイートで「stay tune(こうご期待)」と書いたんですよ。つまり、今回のプロジェクトが終わった今でも、自分たちは新しい何かを考えるのをやめたわけではない。具体的に「これをやるぜ」ということは、その時が来れば、話せるんじゃないかと思っています。
(取材・文=杉山仁)
■リリース情報
『reALIVE』
発売:2017年8月30日
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】¥4,630(税抜)
<収録内容>
CD
全15曲
1.明日地球が滅ぶなら
2.ライフライン
3.EDGE
4.ヒューマノイド
5.不染汚
6.ダブルバインド
7.microser
8.王国廃退~it’s high time~
9.Ego-Rhythm
10.single track
11.アナグラムのコラム
12.re
13.ALIVE
Bonus Truck(初回限定盤CDのみ収録)
14.Unfair
15.すみれ色の空
Blu-ray
Music Video 全13曲
・明日地球が滅ぶなら
・ライフライン
・EDGE
・ヒューマノイド
・不染汚
・ダブルバインド
・microser
・王国廃退~it’s high time~
・Ego-Rhythm
・single track
・アナグラムのコラム
・re
・ALIVE
【通常盤(CD)】¥2,778(税抜)
<収録内容>
■CD
全13曲
1.明日地球が滅ぶなら
2.ライフライン
3.EDGE
4.ヒューマノイド
5.不染汚
6.ダブルバインド
7.microser
8.王国廃退~it’s high time~
9.Ego-Rhythm
10.single track
11.アナグラムのコラム
12.re
13.ALIVE