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柳樂光隆の新譜キュレーション 第4回

柳樂光隆が選ぶ、いま聴くべきジャズピアノの新譜5枚

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 前回は刺激的なジャズギターの作品を紹介したが、僕が監修しているジャズ本『Jazz The New Chapter』ではドラマーの進化がジャズを面白くしているという話を繰り返しやってきたし、ビッグバンド/ラージアンサンブルなどが面白いなんて話もしてきて、様々な楽器を順番に紹介しているような感じだと思う。結局、今、ジャズそのものが急激に面白くなっていて、その結果、すべての楽器が面白くなっているというのが僕の結論だ。というわけで、今月はジャズピアノに注目して聴きたい作品を紹介していこう。

Charles Lloyd New Quartet『Passin’ Thru』

Charles Lloyd New Quartet『Passin’ Thru』

 大ベテランのサックス奏者チャールス・ロイドの新バンドの1作目はライブ盤。これが彼のキャリアハイ・クラスの傑作で、今年の年間ベスト候補には間違いなく入ってくる逸品だ。サイケデリックなロックがジャズにも侵食してきた1960年代に録音し、大ヒットを飛ばした代表作『Forest Flower』のころは時代の雰囲気もあり、大音量でワイルドに吹きまくるスタイルだったが、1980年代以降は一転、音数を絞って空気を含んだやわらかな音色で丁寧にゆったりと吹くスタイルに変わり、まるで書道の墨の濃淡で表情や奥行きを出すような独自のスタイルを築きあげた。ただ、本作では、そのキャリアすべてが詰め込まれたように時にパワフルで時に繊細でチャールスが70年を超える人生の中で培ってきたものがすべて凝縮されているように思う。そんなチャールスのバックでピアノを奏でるのはジェイソン・モランだ。1920年代のストライドピアノから現代ジャズまでジャズの歴史を大胆に縦断しつつ、ヒップホップや現代音楽にまで手を伸ばす彼のピアノとのコントラストが巨匠のサックスをより輝かせる。「Dream Weaver」の10分過ぎから始まるジェイソンのダイナミックなピアノソロではデューク・エリントンから、セロニアス・モンクからアンドリュー・ヒルから、ハービー・ニコルスから、ジェリ・アレンから、とジャズ史屈指の個性派たちのプレイを受け継ぎつつ、21世紀らしいオリジナリティーをガツンと示すこのアルバムのハイライトだ。

Jazz at Lincoln Center Orchestra with Wynton Marsalis featuring Jon Batiste『The Music Of John Lewis』

Jazz at Lincoln Center Orchestra with Wynton Marsalis featuring Jon Batiste『The Music Of John Lews』

 過去のスタイルをフレッシュに聴かせているピアニストと言えば、個人的にずっと追っているのがジョナサン・バティスタ。ニューオーリンズ出身で、同郷のウィントン・マルサリスに10代のころにフックアップされたという天才くん。彼の持ち味はジャズ発祥の地とも言われているニューオーリンズに根付く超トラディショナルなスタイルを身に着けつつ、テクニックや理論的には現代ジャズの最先端を身に着けつつ、モダンジャズの枠内でフレッシュにジャズをやっている点。僕が初めて彼を聴いたのはピアノトリオJonathan Batiste and the Stay Human Band名義で11年前にリリースされた『Live At New York』で、古さと新しさがモザイク状になっているようなピアノに魅了されてぞれ以来ずっと追っている。2014年にはタンバリンやチューバ、トロンボーンを入れてニューオーリンズのブラスバンドの要素をカルテットの中に取り入れ、ジョナサンはシンセを弾いたり、歌を歌ったりとR&B的な要素も入れ、普段とは違うやり方でニューオーリンズの伝統を現代的にアップデートさせた作品『Social Music』をリリースしたりもしている。そんなジョナサンがウィントン・マルサリス率いるリンカーン・センター・オーケストラと共にピアニスト/作曲家でもあるジョン・ルイスの楽曲を録音したのが本作。ジャズとクラシック/室内楽の融合を試みていた奇才ジョン・ルイスの楽曲をウィントン&ジョナサンらしくニューオーリンズジャズ~スウィングジャズ的なトラディショナルなスタイルで演奏しつつ、ジャズの中にもともとあった西洋音楽的な側面を炙り出していくような本作はジャズ史の見直しも進んでいるアメリカらしい好企画。そういった様々な文脈をそつなく演奏するジョナサン・バティスタの実力に唸る。

Christian Sands『Reach』

Christian Sands『Reach』

 トラディショナルなジャズを演奏するピアニストといえば、近年注目されているのがクリスチャン・サンズ。ベーシストのクリスチャン・マクブライドのトリオにも抜擢されて、クリスチャンの『Live at the Village Vanguard』でグラミー賞を受賞するなど、ストレートアヘッドなジャズの若手の中では頭一つ抜けた存在ともいえるかもしれない。彼の新作は、ストレートアヘッドなジャズが軸になりつつも、27歳の彼らしい感性を織り交ぜた作品。バド・パウエルに捧げた「Bud’s Tune」やチック・コリアへのオマージュを形にした「Armando’s Song」のようなモダンジャズを彼なりに解釈したこれまでの彼のイメージを踏襲したものから、マーカス・ストリックランドを迎えた「Freefall」、ギラッド・ヘクセルマンを迎えた「Reaching for the Sun」のような現代ジャズ、さらにはビル・ウィザーズ「Use Me」カヴァーやオリジナルの「Gangstalude」ではヒップホップ的な要素を導入したりと予想に反して幅広い音楽性が形になっている。そういえば、僕は彼のことをトラディショナリストかと思っていたんだけど、以前、クリス・バワーズとこんなセッションをしているのを偶然発見して、ジャズ以外にも興味あるのかと驚いたことがある。(VOL.1; E7 – “Ain’t Misbehavin'” – Christian Sands + Kris Bowers (What Is Prepared Piano?) )そういう志向をようやく形にしてくれたんだなと嬉しくなった一枚でもあった。

      

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