SEKAI NO OWARI、“ドラゲナイ”以降どう支持を広げた? 「ブレーメン」までの活動を追う
明確な意図と戦略が伺える「ANTI-HERO」「SOS」「プレゼント」
多くの若手バンドが聖地・武道館やそれ以上の規模の会場でのライブを夢見る中で、SEKAI NO OWARIは、大きな会場でライブをすることや人気になること、知名度を上げることとは違った点において、音楽活動に注力しているように思う。インディーズデビュー直後である2010年のインタビューでは、以下のように話している。
中島真一(Nakajin)「世界の終わりっていうバンドを始めた時点で、もの凄いデカい夢を描いてたからね」
インタビュアー「夢っていうのは、東京ドームとか、横浜アリーナとか、具体的に設定したりしてたの?」
深瀬 慧(Fukase)「ハコの大きさっていうより、何よりもこのバンドの伝わり方が衝撃的でありたいっていう」
(『MUSICA』2010年3月号より)
ライブの規模ではなく、むしろ、得た人気と知名度を利用して、自分たちの頭の中にある「やりたいこと」を実行していくというのが彼らの“目的”であり、それを実現していくために必要なものとして人気と知名度を得ていく。SEKAI NO OWARIはデビュー以降、常にその信念をもとに活動を続けてきた。
そして「ドラゲナイ」以降、その人気と知名度は大きく飛躍し、SEKAI NO OWARIは自分たちのアイデアをより理想に近い形で体現することになった。
「Dragon Night」からおよそ9カ月後にリリースされた「ANTI-HERO」は、映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の主題歌として発表された。全編英語詞であることに加えて、R&Bやヒップホップの要素が混じった「海外向け」の楽曲と言えよう。国内の既存ファンにウケやすいとは言い難い楽曲をこのタイミングでリリースできたのは、彼らがすでに高い支持を得ていたからこそ。同曲では海外進出を見越した上で、英語詞が取り入れられたのだろう。
SEKAI NO OWARIは2013年から「End of the World」としてアジアをはじめとする海外での活動を続けている。海外でも高い人気を誇るマンガ『進撃の巨人』の実写映画化となれば、映画の海外輸出に伴い、バンドの海外進出への大きな足がかりとなる可能性は高いと推測できる。そこにSEKAI NO OWARIが主題歌として英語詞の楽曲を提供したのは、戦略としては当然と言えるだろう。『進撃の巨人』とのタイアップだからこそ、意味のある英語詞なのだ。
続いてリリースされた『SOS/プレゼント』は両A面シングルとなっており、「SOS」は同映画の後編『進撃の巨人ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』の主題歌だ。作詞はSaoriが担当し、「ANTI-HERO」と同様に全編が英語詞であり、いじめや孤独を連想させる暗い状況の中で「無感覚にならないで」と子どもたちに語りかける。
<助けを求めてる人は毎日「助けて」と叫んでる
(中略)
子供たち、心が無感覚にならないように
静寂に耳をすませて
誰かを救うことは自分を救うことと同じなんだって>(「SOS」日本語訳)
また、もう一方の「プレゼント」は、第82回NHK全国学校音楽コンクール中学校の部課題曲として書き下ろした楽曲で、2015年のNHK紅白歌合戦では中学生との合唱で披露された。
「SOS」と「プレゼント」の両A面というリリース形態には、ただ単純に同時期にタイアップがついたからという以外に理由があるのではないか。誰かのSOSに応えてほしいと子どもたちに語りかける内容の楽曲と、中学生の音楽コンクール課題曲とが両A面になっていることに意味があり、そこに「届けたい相手に届くように」という明確な意図を汲み取ることができる。それほど熱心な音楽好きでない中学生にもアプローチできる今のSEKAI NO OWARIだからこそ有効な手口だ。
あとから振り返ってみれば、それが当然の選択だったように思えるほどに、洗練された戦略のもとリリースされた2枚のシングル。これらは、人気があるからこそ使える手段であり、ドラゲナイ以降のSEKAI NO OWARIの特徴と言える。