京都在住・気鋭アーティストTOYOMU、ジャーナリスティックな創作スタンスを探る
話をTOYOMUの存在を知った時に戻すと、ちょうどWWWの審美眼によってニューカマーが紹介されるシリーズライブ『NEWWW vol.12』。10月開催のそれには他に海外のソウル/ジャズの新解釈と共振するwonk、そして弱冠17歳で拠点をフロリダに置くラッパー、キアノ・ジョーンズ。レギュラーイベントとしていち早くSuchmosやAwesome City Club、D.A.N.などを取り上げてきた『NEWWW』そのものへの信頼もあり、今回の組み合わせにも心惹かれるものがあった。バンドもDJもソロ・アーティストも、そこへ行けば今聴きたい音の片鱗に触れられるという経験則からくる何か。
そこでTOYOMUが見せたライブセットは、新作『ZEKKEI』からの新曲をはじめ、あらゆる時代、個人的には80年代のジャパニーズテクノやインダストリアルなビート感から始まり、あらゆる古今東西のアイコニックなフレーズやオリジナルなビートが交錯しながら進行していくものだった。その終盤、静謐なムードのブロックに差し掛かったところへ、宇多田ヒカル feat. KOHHの「忘却」が差し込まれたとき、不思議な腹落ち感に包まれたことを覚えている。ここでもその場では「印象」シリーズ同様、ジャーナリスティックなイメージを持った。
「ライブする時はみんなが楽しくなるようにしたい、という気持ちがあるので、なるべく『どんな人でもとっつきやすいライブセットにしよう』ということは意識してやっております。あの日について特筆するならば『全部盛り上げに行くのではなく、落ち着いた静謐な感じを目指そう』とは少し思っていました」と、フラットと言っていいスタンスで語りつつ、バンド・メインのライブながら、新たな化学反応を期待するリスナーに対しては、「バンドだけしか知らないような人にもこういう音楽があるんだよ、と伝えて行ければいいですし、そうやって聴いていただける方々は、DJがやっているようなイベントでも絶対楽しめると思います。新たなきっかけになればおもしろいな、と思います」と、スタイルに拘泥しない今のリスナーと当然にように共振する志向を持つ。その後、地元・京都ではGold Pandaの来日公演でも共演するなど、フェティッシュなエレクトロミュージック好きに空気感染のようにTOYOMUのサウンドは広がっているはずだ。
そして11月23日にリリースされるデビューEP『ZEKKEI』では、特定のテーマは掲げず、サンプリング音源は既存のものは一切排除し、自ら作ったサウンドと、京都の町、野山などあらゆるフィールド音を収集。加えて自宅で埃を被っていたシンセサイザーYAMAHA CS1xとカセットテープが活躍したという。ダンスのためというより、その世界観に浸るリスニングミュージックで、音の角を取って磨いた丸さにはRei Harakamiのような温もりを、そして曲によってはスケールの大きな和のニュアンスを感じるサウンドスケープも。わくわくする音の構成の遊び心、大量に押し寄せてくるイメージの洪水、そして重層的でカオティックな展開を見せてもどこか穏やかで品がいいこと。そのせいで何度もリピートしてしまう。音による”絶景”、まさに言い得て妙だ。
TOYOMUはアーティストではあるけれど、彼のリミックスなどを通して「ポピュラリティの高い作品や時代をどう解釈するか」に共振したリスナーは、今後、オリジナル作品の中でそれらを発見することになるだろう。音楽的IQの高さと、茶目っ気のある創作スタンス。久しく存在しなかったタイプのこのアーティストに、バンドやDJの境界を超えて注目していきたい。なお、11月19日にはD.A.N.やTHE OTOGIBANASHI’SらとWWW6周年イベントにも登場。このラインナップも彼の個性を物語る一つの要素だ。
■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Skream!」「NEXUS」「EMTG music」「ナタリー」などで執筆。音楽以外にも著名人のテーマ切りインタビューの編集や取材も行う。