京都在住・気鋭アーティストTOYOMU、ジャーナリスティックな創作スタンスを探る

気鋭アーティストTOYOMUとは?

 10月28日、23時。宇多田ヒカルの『Fantôme』のリリースから「ちょうど1カ月ということで」というツイートののちにBandcamp上にアップされた「印象Ⅶ:幻の気配」という音源。もしかしたら今頃、急速に拡散されているかもしれないが、この『Fantôme』全曲リミックスの作者は京都のアーティストTOYOMUだ。

 1990年生まれ、京都在住であり、ヒップホップ・ルーツのビートミュージックから作品作りを始めたという程度しか事前情報がない中、このアーティストが11月23日にデビューEP『ZEKKEI』をリリースするというニュースレターを受け取り、即座にピンときたわけではない。そこで初めてプロフィールを知り、カニエ・ウエストの新作『The Life of Pablo』がリリースされたものの、日本で聴けない状況にあり「聴けないなら自分で作ろう」と、たった4日で完成したのが「印象III:なんとなく、パブロ(Imagining “The Life of Pablo”)」であり、自身のサイトにアップしたところBillboard、BBC Radio、Pitchfork、The Fader、FACTなど、一気に海外の有力メディアが絶賛。一夜明けたらいきなり世界で騒がれていたという事実と、その音源を知った。サグラダ・ファミリアのごとく延々と曲が増えたり、実人生が反映されたり、ゴスペルもアブストラクトなティップスも居並ぶあのアルバムが持つテーマのようなものがTOYOMUの妄想と驚くべき符丁を見せていたことに遅ればせながら驚いた(だからこぞって騒がれたわけだが)。

 この創作についてTOYOMUは、「もともと自分がBandcampにて行っているシリーズ、『印象』の一環として作りました。オリジナルのカニエのアルバムがあらゆる点において今までにないものだったので、これは何か自分でもおもしろいことができそうだな、と思ったからです」と語っている。そして、様々な感想の中で一番覚えているのは「海外の掲示板にあったカニエのフォーラム内のものです。『コイツ、絶対一通り聴いてから作ってるから。やってることはおもしろいよ? でも小説(←たぶんフィクションの意)だから。』という一文」だという。

TOYOMU - 印象III : なんとなく、パブロ (Imagining "The Life of Pablo")

 後追いでBandcampの「印象」シリーズを覗いてみると、そこで感じたのは茶目っ気すら漂う軽快さと、同時に悪ふざけ紙一重の音によるジャーナリスティックな表明だ。でも、どうやらポピュラリティのあるアーティストを素材として扱う理由はもっと明快で音楽的。

「自分のやりたいことがわりかし複雑なことだったりするので、人に聴いてもらおうと思うとやっぱりそういう興味を惹くキャッチーさは必要かなと思ってます。あと、これは最近になって気付きましたが、美意識という点で言うならば、『自分がアレンジしにいける隙があるか否か』ということはテーマとして選ぶ上で重要なポイントかもしれないです。不完全さ、というか」

 現在20代半ばで京都を拠点に音源制作や自身のイベント/コレクティヴ『Quantizer Kyoto』も主宰。そんな彼のトラックメイキングのルーツは大学の時にAKAIのサンプラーMPCを買ったこと。本格的に音楽にハマったのは90年代の日本語ラップ。カルチャーなのか手法なのか曖昧だが「ヒップホップという総合的なものに惹かれていた」のだという。サンプリングが遊びと本気の境界線なく血肉になっているのだと想像する。

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