パスピエがバンド“2周目”で突き詰めること「説明に困るような純度の高いものを目指したい」

パスピエが“2周目”で突き詰めること

 パスピエが4月27日に、2016年第一弾シングル『ヨアケマエ』をリリースした。同作の表題曲は、パスピエが武道館公演というひとつの節目を終え、次のステージへと進んでいることを改めて提示するストレートな歌詞や、オリエンタルなメロディー展開とタイトなリズムの絡み合う、パスピエのパブリックイメージをあえて反映したといえる楽曲だ。リアルサウンドでは今回、バンドの中心人物・キーボードの成田ハネダと、パスピエの特徴の一つであるアートワークや歌詞を手がけるボーカルの大胡田なつきにインタビューし、4月6日に発売した『Live at 日本武道館“GOKURAKU”』や『ヨアケマエ』についてのこと、2人が口を揃えて“2周目に入った”と語ったバンドの現状などについて、じっくりと話を訊いた。

「武道館が終着点ではなく、次の一歩をどう踏み出すか」(成田)

――まずは4月6日に発売した『Live at 日本武道館“GOKURAKU”』の話から聞かせてください。武道館のステージは1年の集大成ということもあって、演出も豪華になっていたほか、各メンバーには機材の変化も見られました。

成田ハネダ(以下、成田):武道館という場所では、色々な特効を使ったり、ライブを盛り上げる上でいろいろな見せ方ができる場所ですが、「パスピエならではのステージ」としてどういうものができるのかを考えて。楽器の魅力や大胡田のステージングなどを存分に表わせたほうが面白いと思ったし、「まずは耳で楽しんでほしい」ということを模索した結果が、機材の増強などに繋がりました。

大胡田(以下、大胡田):私は、楽器とは違って目にハッキリ見えるものではないですが、今までの延長線上にあるものをステージで表現できたという手ごたえはありました。空間全部が集大成というか。端から端まで駆けまわらなくても伝わるのを感じたし、ステージの上で自分が楽しむ余裕が増えたのかもしれません。

――個人的にパスピエのライブは、昨年9月にO-EASTで行なったライブ、つまり『娑婆ラバ』の楽曲をセットリストに加えるようになったときから、大きく見せ方が変わったと感じています。その時のMCでも言っていましたが「考えて聴く」ことがよりできるようになったというか。(参考:パスピエの魅力は、強く太い一本線になったーー間口を広げて成長するバンドの今を分析

成田:そうですね。ただ、それがすべて計算通りということではなくて。『娑婆ラバ』も制作直前までは「ポップネスに溢れたアルバムにしようかな」と考えていたくらいなので。昨年は初めてアニメのタイアップや武道館が決まるなど、自分の中で「外に向けなきゃ、広げなきゃ」という一種の気負いみたいなものがあったんです。ただ、バンドメンバーと話して、自問自答していくうちに「パスピエらしさ」というのは、はたしてそこだけで伝わるのかと考えるようになり、悩みぬいた結果の「淀み」みたいなものがアルバムで全部放出てきた感じがしていて。改めて『娑婆ラバ』を聴いて、「自分たちにおけるポップというのは、こういうことなんだな」と確認できてよかったです。

大胡田:ライブについては、みんなで一緒に騒ぐことも勿論楽しいのですが、「こちらが世界観を見せる」というパフォーマンスを考えるようになりました。『娑婆ラバ』ではメロディーや歌詞に世界観のある曲が沢山生まれたので、そのイメージを途切れさせずに、一曲を通して浸ってもらえるような表現を意識するようになったんです。

ーー大胡田さんの歌でいうと、「花」や「素顔」といったようなボーカルを前面に押し出す楽曲もセットリストに加わりましたからね。

大胡田:今まで、ライブでは「どうしたら感動みたいなものに近い感情を与えられるか」と考えて歌っていたのですが、『裏の裏』に収録した「かざぐるま」あたりから、変な力の入れ方はしなくていいのかもと思うようになったんです。自分の素が前面に表れている曲なら、私が曲に対して感じている気持ちを込めて歌うことで、しっかり伝わるんだと。

――なるほど。そんな武道館を経てリリースするシングル『ヨアケマエ』の表題曲は、外に向きすぎることもなく、等身大のパスピエが“芯”の部分を表現した一曲なのかもしれないと感じました。

成田:武道館が終着点ではなく、そこを終えて次の一歩をどう踏み出そうか考えているなかで「温度感をどれぐらいにするか」というテーマに行き当たりました。やっぱり自分たちの音楽も幅を広げなければいけないし、数あるアーティストの中から、パスピエの「ヨアケマエ」をたまたま聴いてくれた人に「ああ、こういう音楽もあるんだ」と思ってほしくて。これまでは好きな音楽ジャンルのそれぞれ違うメンバーが、色々なところに表情を持たせているバンドとして3、4年やってきましたが、『娑婆ラバ』をリリースするきっかけになった「蜘蛛の糸」や、ロンドンでライブをしたときに改めて感じた“ジャポニズム”と向き合ったとき、ダンスビートをバンドサウンドで演奏しつつ、そこに和のテイストを乗せるのが自分たちの“らしさ”なのかもと感じました。

――たしかに、「ダンスビート+オリエンタルなメロディー」というのは、パスピエを表わすのに多くの人が使っている記号かもしれません。

成田:これまでの曲だと「チャイナタウン」などがそうですよね。和のテイストって、いわゆる和っぽい音階を使えば出せるのですが、それはどのアーティストもトライしていることなので、自分たちはその手法を使わずにどこまでできるのかを追求した1曲ともいえます。オリエンタル感というのはニューウェーヴともリンクするところですし、そういう意味では、これまで築き上げてきたパスピエの音楽像に向き合って、改めてその武器を研ぎ澄まして攻めようという楽曲でもありますね。

――パスピエの“ダンスビート”は、ロックバンドが多用しがちなお祭り感のあるものではなく、どこかヨーロッパのクラブミュージックのような、ある意味で無機質さのあるものですよね。

成田:僕自身、ヨーロッパのバンドやニューウェーヴが大好きということもありますし、アメリカよりも、フランスやイギリスのようなビート感が日本人の気質には合っていると思うんですよ。ライブの反応を見て、改めてそう感じました。

パスピエ - ヨアケマエ

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