バンドにとっての鬼門? サードアルバムを乗り越えたパスピエの総合力とは
パスピエが前作『幕の内ISM』から1年3か月ぶりとなるサードアルバム『娑婆ラバ』を発表した。成田ハネダがクラシック的な意匠を全面に出したオープニングの「手加減の無い未来」を筆頭に、ライブ会場の規模が徐々に大きくなり、12月には日本武道館公演を控えるバンドの状況を反映したような、スケールの大きな楽曲が並ぶ一枚となっている。
しかし、このサードアルバムというのは、バンドにとっての鬼門だったりもする。会場の規模感に合わせて、楽曲のスケールが大きくなるのは当然の理屈なわけだが、それに伴いバンドの技術的な地力が問われるからで、「演奏やアレンジが大味でも、メロディーの力で一点突破!」というわけにはいかなくなるからだ。歴史を振り返れば、オアシスは『Be Here Now』(1997)でマスコミから極端な掌返しを食らい、コールドプレイの『X&Y』(2005)も、ストロークスの『First Impressions of Earth』(2006)も、当時は賛否両論だった。
日本に目を移しても、BUMP OF CHICKENの『jupiter』(2002)やASIAN KUNG-FU GENERATIONの『ファンクラブ』(2006)も、決して最初から諸手を挙げて称賛をされたわけではなかったように思う。オアシスの大ファンとして知られる[Champagne](現[Alexandros])の川上洋平は、『Schwarzenegger』(2012)発表時の筆者のインタビューにおいて、「ファーストとセカンドはオアシスを多少意識していたものの、サードは真似しちゃいけないと思った」と言い、「プロのミュージシャンとして、勝負作とかっていうのはあると思うんですけど、曲を作ることに関してはそこを意識しちゃうと終わりだと思うんですよね」と語ってくれたのが印象深い。やはり、バンド本来の地力が問われるのが、サードアルバムなのである。
その点、パスピエは『娑婆ラバ』において、その地力を見事証明してみせたと言っていいだろう。「手加減の無い未来」以降、アルバム前半はアッパーかつスケール感を兼ね備えた曲が並ぶが、決して大味な演奏になることはなく、アレンジも実によく練られている。パスピエも今の時代のバンドらしく、フェスの盛り上がりでオーディエンスを獲得してきた側面があり、これまでも、そして本作においてもリズムは4つ打ちが多く使われている。しかし、やおたくやのプレイは決してシンプルに裏打ちのハイハットを入れるばかりでなく、音数を絞ったミニマルなアプローチをしたり、フュージョンのようにキメを多用してみせたりと、そのパターンは実に多彩。そして、「術中ハック」では変則の8ビートが楽曲の背骨となり、その上で弦楽器がさまざまなパターンでユニゾンを聴かせるという、非常にユニークな仕上がりとなっている。