パスピエが提示する、リズムの“新モード”とは?「『四つ打ちの中で新たな解釈を生み出さないと』と危機感が生まれた」

パスピエが提示するリズムの“新モード”とは?

 パスピエが、9月9日にメジャー3rdアルバム『娑婆ラバ』をリリースした。同作はアニメ『境界のRINNE』(NHK系)のオープニング・エンディングにそれぞれ起用されたシングル表題曲「トキノワ」「裏の裏」など12曲を収録。バンド全体がさらにビルドアップされていることを感じさせるバラエティに富んだ内容に仕上がっている。

 リアルサウンドではこれまで、バンドの中心人物・キーボードの成田ハネダと、パスピエの特徴の一つであるアートワークや歌詞を手がけるボーカルの大胡田なつきに話を訊いてきたが、今回はメンバー全員にインタビューを行なった。パスピエが同作で挑戦したことや、5人それぞれが思う“パスピエらしさ”、バンドが向き合ったストレートな表現について、存分に語ってもらった。

「結局のところ、この5人で演奏した音がパスピエになる」(三澤)

――まずはアルバムを一聴した感想として、アレンジの仕方が変わったのかなと思いました。全部の楽器が立っているというか。

成田:細部にこだわった曲が増えたからでしょうね。5人組のバンドとして、場所によって「個を立たせた方が良いな」と思えた曲がいくつかあったので。ただ、制作過程で意図的に「こういうコンセプトでアレンジしよう」と思ったわけではありません。

――では作品自体をどういう意図でラッピングしたのでしょう。

成田:今回は配信シングルを含めた3曲が既出曲で、しかもその内2曲がアニメタイアップだったので、パスピエを初めて知ってくれた人もたくさんいるタイミングなんです。だからこそ、そのシングルから伝わってくるイメージをひっくり返すくらいの、より濃い“パスピエらしさ”を出せるようにしたい、という意図がありました。

――2ndアルバム『幕の内ISM』のインタビューでは「定型がないこと」を強みにしているという発言がありましたが、前作『裏の裏』がリリースされたときのインタビューでは、バンドが“パスピエらしさ”に向き合ったことを教えてくれました。今作ではそこで見えた“らしさ”を再追求したということでしょうか。

成田:そうですね。色々紆余曲折して今の場所に辿り着いていますが、方向性を度々変えてきたのは、自分たちにとって挑戦でもあり、世の中の反応への挑戦でもありました。それが、2ndアルバムから3rdアルバムまでの期間で、アルバムの反応を見て、ツアーを経て、ぼんやりとパスピエに求められていること、パスピエという集合体でやりたいことを、メンバーそれぞれが持つようになってきたんだと思います。

――各メンバーごとにその考えもまた別であるということですね。では、やおさんからアルバムの話を含めて“パスピエらしさ”を訊いていきたいのですが。

やおたくや:僕の中では今作に【日常と非日常】というイメージがあって。「贅沢ないいわけ」や「トキノワ」が日常だとすれば、「蜘蛛の糸」や「術中ハック」は非日常。楽曲ごとに結構パッキリ分かれたイメージがあって、2面性みたいなものを出せたかなと思います。

大胡田:私は…『娑婆ラバ』は、これまでと違って“現実っぽくなった”というか。歌詞にしても、今まで割とファンタジー的な視点で、物語や想像で書いていたものが多かったのですが、今回は身近で起こった・体験したことを歌詞へ落とし込む機会が増えました。楽曲のイメージとしては、やおさんの言ったように【日常と非日常】があると思いますが、中身はほとんど日常で、いまを生きている自分たちのことが書けたと感じています。

――それは『裏の裏』で初めて日常的な体験を落とし込んだ「かざぐるま」が転機となったのでしょうか。

大胡田:あの曲はぱっと見で理解できるくらいの日常感ですよね。『娑婆ラバ』の曲は、表現しているものは日常なんですが、それをパスピエらしくたとえ話に書き換えているのでその辺りも深読みして聴いていただけるとうれしいです。

――読み取れる風景がより日常的になったということですね。続いて三澤さんと露崎さんが今回のアルバム制作にあたって感じたことを教えてください。

三澤:今回のアルバムがバラエティに富んでいるのは、昨年のツアーを経て気付いた部分が大きいと感じています。結局のところ、この5人で演奏した音がパスピエになるというか。それに気付けたからこそ、細かいアレンジや踏み込んだところまで楽曲を持って行けました。

露崎:バンド自体は、常に新しいことに挑戦していこうというスタンスだったんですけど、『娑婆ラバ』はマスタリング後、初めて聴いたときのインパクトが一番大きかったなぁという感触がありまして。というのも、新しいことに対しての挑戦が、一番明確にリターンされていると思うんです。具体的に言うと「つくり囃子」や「術中ハック」などの、隙間を作りつつ凝ったアレンジをしたものや、「花」のようにストレートなバラードを入れるなど、両極端に振り切れました。そこに新しいパスピエらしさを見つけた気がします。

――露崎さんが言うように、『娑婆ラバ』は、パスピエ史上一番振り幅の大きいアルバムです。これを整理して並べるのも大変だったと思うのですが、どういうイメージで並び替えましたか?

成田:単純にフィーリングで選んだ部分もありつつ、今までのパスピエから一歩踏み込んだところを見せようと思ったんです。あと、セットリスト的な並べ方ではなく、“心地良い違和感”が生まれるように意識した部分もありますね。

――だからアレンジは凝っているけど、なかなか聴き疲れしないのかもしれません。ここからは各曲についても質問させてください。1曲目のパスピエ流ギターロック「手加減の無い未来」は、「七色の少年」→「贅沢ないいわけ」→「トキノワ」の系譜上にあるという感じでしょうか。

成田:そうですね。この曲もそうなのですが、アルバムを通してJ-POPに向き合った曲がわりと多くて。多分、今までシングルのカップリングでカバーをたくさんやってきたことも大きいと思うのですが、「七色の少年」や「名前のない鳥」のように、ポップに聴こえても構成や軸の部分は逸脱しているものよりも、軸や構成もあえてポップスに近づけたものを、いかにパスピエなりに料理するかに重きを置いた部分があります。

やお:この曲って、もともと歌が最初ではなかったんです。ただ、全員で「そろそろポップな始まり方も取り入れていいんじゃない?」という話になり、歌始まりに変えました。そういう風に、構成を話し合って考えることが、今作は特に多かったような気がします。

成田:アルバムの曲順って、プレイヤーに入れてシャッフルで聴いたり、ストリーミングサービスのプレイリストで聴いたりする近年においては、有って無いようなものだと思っていて。だからこそ、どこから入って来ても楽しめるような作品にしたかったんです。あと、僕らの顔を出していない部分から、一風変わったバンドみたいなイメージもデビュー当時はあったわけですが、このタイミングで色々なシーンや状況、自分たちに対して真正面からがっぷり四つで組み合わなきゃいけないと感じたので、ストレートな部分を軸に据えて、聴き通した時に、歌詞や楽曲でストーリーが感じられる構成にしたかった。そう思えたのは、年末に武道館公演を見据えていたり、それ以外の様々な要素が絡み合ったからなんです。

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