「天才高校生」の実力を検証:ぼくのりりっくのぼうよみの突出した才能とは何か?

ぼくのりりっくのぼうよみの才能を検証

 12月16日のメジャーデビューを控え、「17歳の超大型新人」として早くも話題沸騰中のぼくのりりっくのぼうよみ。動画サイトへの投稿を経て、高校2年生だった2014年、10代を対象にした日本最大級のオーディション企画「閃光ライオット」でファイナリストに選出され、TOKYO FMの人気番組『SCHOOL OF LOCK!』にもフィーチャーされたことで脚光を浴びた。12月7日には1stアルバム『hollow world』の全曲試聴トレーラー映像を公開し、こちらもすでに多くのリスナーに届いている。

ぼくのりりっくのぼうよみ - 1stアルバム『hollow world』全曲試聴トレーラー映像

 

 ネットを出自とし、17歳の若さでメジャーデビューを勝ち取った本格派ラッパー/ボーカリスト――それだけで、新たなスターの登場を待ち望む音楽業界やリスナーの関心を集めるには十分だが、本稿では彼の音楽の何が突出しているのか、という点を検証していきたい。

 まず、抜きん出た歌唱力とラップのスキルが挙げられる。動画サイトに投稿を始めた当時、ハチ(米津玄師)などボカロPの楽曲を歌っていたことからもわかるように、“歌”が表現のベースになっているため、ファルセットを時折交えたフックはメロディアスで魅力的だ。一方で、ラップにはスピード感があり、音楽的快楽を伴う。

 そして、リリックとして表現されている言葉の面白さ。彼は日常的なリアリティよりも、この世界のあり方、そのなかに見える人間の本質などにフォーカスしており、抽象的あるいは観念的な言葉が多く登場する。それも、奔流のように言葉が溢れ出ている印象だ。

 彼は現在、大学進学に向けた受験勉強中で、数学が得意だというが、先日行なったインタビュー(近日公開予定)では非常に論理的で雄弁だった。楽曲においてもリリックをクールに、理知的に積み上げている。一方で、フックではエモーショナルに突き抜けており、ロジックとエモーションの組み合わせが楽曲の核になっているのが興味深い。

 特筆すべきは、上記のようなポップで広がりのある歌/ラップのスキルと、ディープな歌詞の世界がミックスされ、結果としてポップミュージックの新しい形として成立していることだ。そしてポップスとして捉えると、複雑なテーマに真正面から取り組んでいることがあらためてユニークに映る。<なんせ羽が黒いだけでこんなに暮らしにくい世の中で>(Black Bird)と、自意識と社会との距離を寓話的に描いた楽曲もあれば、ネットでもブレイクした「sub/objective」のように、カメラをひとつに固定せず、複数の異なる視点を使い分けることで、一曲のなかでさまざまな風景を描き切った楽曲もある。

 一方で、彼は先述のインタビューで「メロも聴きにくくて、トラックも奇抜で、歌詞もめちゃくちゃだと、聴きたくならない。だから、メロだったりトラックだったりに、シンプルな部分を託している」と語っている。トラックはネット上のクリエイターに発注したり、J-POPシーンで広く聴かれるアーティストの楽曲を引用したりと、ネットミュージックとメジャー楽曲の垣根を越え、90年代以降の音楽シーンの資産を引き出しにして、緊張度の高いトラックを生み出している。

 彼の音楽性はどのように培われたのか。音楽ファンである母親の影響もあって、彼は幼少期からEGO-WRAPPINやMONDO GROSSOを聴いて育ったという。いずれも洋楽的手法と邦楽的手法を高いレベルで融合させたバンド/プロジェクトだが、「ぼくのりりっくのぼうよみ」の楽曲にも洋楽的要素は見られる。ラップも含めて欧米のポップミュージックの影響を消化しつつ、日本語の音節を活かした聴き心地のいい作品に仕上げているからだ。90年代から00年代にかけて、エクスペリメンタルな音楽家たちが行った実験の成果が、ここに受け継がれているという見方もできる。

 もちろん、ネットの音楽を所与のものとして聴いて育った世代であり、前出の米津玄師を含む、10年代前半のニコニコ動画、歌ってみた、あるいはネットラップから吸収したものも大きいようだ。ネット発の尖った音楽、広く聴かれるJ-POP、またEGO-WRAPPINのような洋楽やクラブジャズの影響も取り入れたポップスも並列に受け入れ、同じように吸収しているのが、表現者としての彼の強みだろう。だからこそ、ネット的な機動力、反射神経のよさが言葉の端々から感じられ、同時に比喩の巧みさや寓話的な要素――ある種の古典的な文学センスが見られるという、いわばアンビバレンツな魅力を獲得しているのだ。

 1stアルバム『hollow world』は、単独で完成している作品というより、「まだまだ何かありそうだ」という予感に満ちた一枚だ。彼が秘めている多彩な引き出し、断片的アイデアが一つひとつの楽曲に凝縮されており、作品全体として、多くの可能性のトビラを見せている。17歳という年齢も相まって、リリースと同時に音楽シーンに大きなワクワク感を与えるだろう、稀有な作品である。

(文=神谷弘一/写真=神藤剛)

■リリース情報
『hollow world』
発売:12月16日(水)
価格:¥2,000(税別)
<収録曲>
1.Black Bird
2.パッチワーク
3.A prisoner in the glasses
4.Collapse
5.CITI
6.sub/objective
7.Venus
8.Pierrot
9.Sunrise (re-build)

■関連リンク
オフィシャルサイト
http://bokuriri.com
Twitter
オフィシャルアカウント
https://twitter.com/bokuriri_info
ぼくのりりっくのぼうよみ本人アカウント
https://twitter.com/sigaisen2

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