バンドにとっての鬼門? サードアルバムを乗り越えたパスピエの総合力とは
ドラムのビートをよりグルーヴさせるのに重要なのは、言うまでもなくベースの存在であり、直線的な4つ打ちが少しずつ飽きられてきて、ファンキーなリズムが求められている現在のバンドシーンにおいて、ベーシストの存在はより重要になりつつある。そんな中にあって、露崎義邦は「裏の裏」のAメロで楽曲に躍動感を与える伸びやかなフレージングを聴かせる一方、「術中ハック」では歪みを効かせて楽曲のアクセントになるなど、アンサンブルの引き締め役として大いに貢献している。
三澤勝洸のギターに関しては、楽曲の色に寄り添って多彩なプレイを披露しているが、やはり印象的なのはヘヴィメタルを通過したギタリストらしい、泣きのギターソロであり、「術中ハック」のソロは特に聴きどころ。そもそもメタルはクラシカルな音階との相性がいいジャンルであり、のりやすい軽快なロックとしての側面を維持しながらも、楽曲のスケールを大きく見せているのは、成田によるシンセのフレーズと共に、三澤のダイナミックなプレイによるところが大きいと言えよう。
アルバム後半にはより幅広い曲調が並び、重量級のミドルバラード「花」、ボサノバ風の涼やかなコード進行と、パーカッシヴなビートが印象的な「ハレとケ」を経て、個人的なハイライトが「つくり囃子」。これはもはやフュージョンというよりも完全にプログレで、重心の低い祭囃子風のドラムも含め、バトルスの「Atlas」を連想させるような、インパクト大の一曲。「手加減の無い未来」や、「トキノワ」の間奏に出てくるクラシカルなギターソロと合わせて、ぜひ武道館の広い空間で体験したい一曲である。
成田のソングライティングのさらなる洗練、大胡田なつきのボーカリストとしての、そして、よりマスに訴えかけるようなリリシストとしての成長も含め、パスピエはメンバー5人の地力によって、「バンドにとっての鬼門=サードアルバム」を、見事に乗り越えてみせた。
(文=金子厚武)