柴那典が快作シングルの来歴を分析
タイムリミットまで2年、スガ シカオはどこに向かうのか? 新曲『モノラルセカイ』から読み解く
スガ シカオの「残り時間」は、あと2年。
こう書くと大袈裟な話のように思えるかもしれないが、おそらくこの数字については、彼自身が誰よりも強く意識しているはずだ。今年7月で48歳となったスガ シカオ。彼は、以前から繰り返し「50歳までに自身の集大成となるようなアルバムを完成させたい」と語ってきた。それが自分のアーティスト人生における最大の目標であることを公言してきた。3年前、デビュー以来の所属事務所からの独立を発表した時にも、それが大きな理由なのだというコメントを発表している。
10月21日に、シングル「モノラルセカイ」を配信リリースしたスガ シカオ。今回の記事では、そのことを踏まえて、今の彼の活動と音楽性を読み解いていこう。
2011年から2年半のインディーズ期間を経て、5月にSPEEDSTAR RECORDSからシングル『アストライド / LIFE』をリリース、再びメジャー復帰を果たした彼。新曲は配信のほか、11月から始まるライブツアー「Next Round Tour 2014」のパンフレットにもCDとしてセットインされる。ツアーは、タイトル通り次を見据えたものになるはずだ。こうした、ここ数年の動きを象徴するようなリリースとして、今回のシングル「モノラルセカイ」はある。
まずはサウンドについて。きらびやかなシンセと力強いギターリフが印象的な「モノラルセカイ」は、彼がアルバム『FUNKAHOLiC』(2008年)の頃から追求してきたエレクトロ・ファンクのスタイル。00年代後半のフレンチ・エレクトロから最近のEDMに至る音楽シーンの潮流を彼なりのセンスで昇華し、ファンクのルーツを踏まえつつキャッチーなJ-POPとして成立させたような曲調になっている。モータウンや80年代のプリンスにも通じる、8ビートファンクのテイストだ。
インディーズから再出発を果たしたシングル「Re:you」(2012年)もアグレッシヴなエレクトロの曲調だったことを踏まえると、スガ シカオが「2010年代の同時代的なファンク・ミュージック」としてエレクトロを捉え、それを自身の音楽性の核心にしていこうとしていることは明らかだ。
そして、孤独や閉塞感の感情が鋭く切り取られた歌詞も、「モノラルセカイ」の大きな特徴になっている。《ぼくは自分以外の“世界”を ただ憎んでいた》《君はそんな世界から来た たった一人だけの ぼくの味方》と、どん底から希望の光を見据えるような歌詞になっている。
このあたりには、シンガーソングライターとしてより生々しく、よりダイレクトに響く言葉を志向してきたここ数年の彼の活動が結実していると言えるだろう。そもそもメジャーレーベルと事務所を離れた理由も、自分の音楽活動がパッケージ化されて一人一人の聴き手と直接繋がっている感覚を得られなくなっていたことが大きいのだという。彼はインタビューでもこんな風に語っている。
「『さすがですね』っていう言葉ってオートメーションなんだなって気づき始めて……そこに乗っけられることが凄く屈辱だったんですよね。耐えられないぐらい苦痛だった。だから、それをとにかく打破しないことにはダメだと思って」(『MUSICA』2012年8月号)
メジャー復帰シングルに収録された「アストライド」は、《何度だって やり直せばいい 何度だって 恥ずかしくはないよ》と、独立してからの2年半の歩みとそこで手にした希望をリアルな言葉で描いた一曲。つまり、スタッフに守られた立場を捨てて全てをゼロからDIYでスタートさせた彼の「生き様」とリンクするような歌詞になっていた。
シンガーソングライターとして、今の時代に対して何を歌うか。どれだけの説得力を持ってそれを届けるか。それは今の彼が追求している大きなテーマでもある。インタビューでもこんな風に語っていた。
「ひと昔前は、ポップスってライフスタイルの提案でもあったと思うんですよ。でも、今の時代に提案すべきなのはライフスタイルじゃなくて、精神的なスタイルなんじゃないかって思うようになって。それは大きなテーマになっていくと思う」(『MUSICA』2014年6月号)