『Tシャツが乾くまで』“言わないやさしさ”の行方 “充”松山ケンイチの帰還が意味するもの

「嘘はダメ。でも、言いたくないことは言わなくていい」
それは、咲子(蒼井優)と充(松山ケンイチ)が結婚したときに決めた約束。言いたいことであれば、自ら言う。だから、言いたくないことまで無理に口を割らせることはしない。夫婦になっても、それぞれ個人としての領域は確保しながら、心地よく生きるための決め事だった。
たしかに、言いたくないことを言わなくていい関係は理想的だ。相手に見せたい自分だけを見せ続けられたら、自分にとっても、相手にとっても心地よい。だが、そんなやさしい時間だけが漂うわけではないのが人生だ。

人に見せたくない自分が露呈するとき。言いたくない事情が発生したとき。そんな厳しい場面が人生にはやってくる。そのとき、家族であれば「知っていて当然」と周囲に求められることもある。それに答えられないパートナーに「迷惑」をかけることにもなる。
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)第5話では「迷惑」というワードが印象的に響いた。人に迷惑をかけてはいけない。そう教わり育ってきた私たちは、いつしか自分が迷惑をかけまいと努力する代わりに、誰かからかけられる迷惑に対して、とても敏感になっていはしないだろうか。
突然、日常が壊れたあの事故から1年。咲子と樹生(中島歩)の関係は少しずつ深まっていった。お互いの家を行き来し、食卓を囲み、樹生の息子・翔(久保田薫)もすっかり懐いている。その関係にあえて名前をつけるとすれば、“ご近所さん”なのだろう。けれど、単なるご近所さんよりもずっと深いところでつながっていると感じるのは、お互いの喪失を支え合った時間があるからだ。
一緒にいて楽しい。そして、楽でもある。けれど、それはすぐに新しい家族になったり、恋愛関係に発展したりするものでもない。あくまでも、咲子と樹生ならではの関係。「はっきりした関係じゃなくても、一緒にいていいじゃないですか。お互いに心地よくて、誰に迷惑かけるわけでもないなら」と咲子は言う。きっとその言葉には、上司の千鶴(臼田あさ美)が語った、拓真(庄司浩平)との別れ話も影響しているのだろう。
「別に一人で生きていけるし。子どもも完全に諦めついたし。そうなると恋愛って、とにかく楽しく、かつ人様に迷惑かけない。これに尽きるんだわ」と噛みしめる千鶴に、「誰にも迷惑をかけないっていう恋愛する基準、納得です」と頷く咲子。
自分自身の感情の高ぶりが何よりもメインになるはずの恋愛においてさえ、“誰か”への迷惑が判断基準として出てくる。その誰かとは当事者なのか、世間一般なのか、あるいはその両方なのか。自分たちが心地よいかどうかだけでなく、「誰かを傷つけていないか」「誰かに迷惑をかけていないか」までを気にする。その感覚は、いかにも今の時代らしい。

そして、彼女たちの会話の中に出てきた「うっすら軽蔑」という言葉も興味深かった。拓真が妻とオープンな恋愛を認め合っているとはいえ、世間的には「不倫」をしている千鶴に対して咲子は「うっすら軽蔑」する空気を隠さない。そして、千鶴もそう思われていることを受け入れていた。親しい間柄のふたりだからこそ、それを笑い話にできる。けれど、他の人ならどうだろうか。
そもそも「誰にも迷惑をかけていない」という判断自体、どこまで自分で決められるものなのだろう。自分ではそう思っていても、他人から見れば違うかもしれない。そのズレがあるからこそ、「うっすら軽蔑」というグレーゾーンを認め合う彼女たちの会話に共感が生まれる。




















