『風、薫る』“ツヤ”東野絢香の再出発を描いた理由 “りん”見上愛が向き合う過去の自分

9月15日に放送されたNHK連続テレビ小説『風、薫る』第122話は、実質的に看護婦を目指すツヤ(東野絢香)のスピンオフ回だった。
恵風看護婦会の扉をたたいたのはツヤだった。帝都医大病院で働く看病婦だったツヤは、11年前、患者に解熱剤を投与し忘れたことが理由で解雇された。ツヤを看病婦として雇う病院はなく、その後、住み込みの女中として働いてきた。看護婦になろうとしたが、養成所に入るには年齢と金銭面でのハードルがあり、それでも諦めきれず、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)の下で働きたいと語る顛末は、第121話で描かれた。

りんと直美が出した結論はツヤを受け入れること。恵風看護婦会でツヤに看護婦の知識を教え、現場実習も行う。問題がなければ、正式に看護婦として採用する予定だ。
ツヤに看護を教えるにあたって、りんの中にはためらいがあった。働きながら看護を学んでいたツヤの状況を理解しつつも、多忙を極めていたりんは、ツヤが重大なミスをすることを防げなかった。生徒たちが辞めてしまったことにりんは自責の念を感じており、自分にはツヤを教えることはできないと思っているようだ。結局、講義は直美が行い、しのぶ(木越明)とツル(うらじぬの)も分担することになった。
11年間で書字が上達し、熱心に学ぶツヤからは向学心が感じられる。出入り業者の虎太郎(小林虎之介)に薬の質問をするなど努力するツヤを周囲も応援。3カ月後、ツヤは直美にあることを頼む。それは、りんが実習を担当することだった。
ツヤの願いを聞き入れて、りんは、派出看護にツヤが同行することを承諾。リウマチを患う佳枝(相田翔子)にツヤは落ち着いて接することができた。病院と違い、家で自立して生活できるようにサポートすることも派出看護の重要な仕事であり、りんの気遣いと工夫を目にしたツヤは「お願いして良かった」と喜んだ。

りんにも、言わなければならないことがあった。11年前、辞めさせてしまったことを「気にしないといけないこと」と振り返りながら、りんは、辛い時は辛いと言ってよく、1人で抱え込まないでほしいと伝えた。「必ず助けますから」の言葉には決意が込められていた。
東野絢香の朝ドラ出演は2020年度後期の『おちょやん』以来だが、この間に『六本木クラス』(テレビ朝日系)、『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)、『JKと六法全書』(テレビ朝日系)、『アンサンブル』(日本テレビ系)など話題作に出演。大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)では、座敷持ち花魁の志津山を演じた。

今作のツヤは、苦学しながら看護婦という目標に向かって進む女性であり、朝ドラで描かれてきたヒロインの生きざまに通じるものがある。当初はりんたちと打ち解けなかったが、同じく離縁された過去がある喜代(菊池亜希子)に心を開いていく。挫折を乗り越えて、ひたむきに夢を追う姿は自然と応援したくなる。演技力を備えた東野は、同僚のフユ役の猫背椿と同じく、映像作品の質を保証してくれる貴重な存在だ。
恵風看護婦会を訪れた寛太(藤原季節)に、直美は近日中に看護婦の取締規則が制定されることを伝える。寛太の下で働く「看護婦」たちの今後を考えてのことだったが、寛太は「だまされていないか」と返す。元詐欺師の寛太は、お上がすることを疑っているのだ。

寛太の言葉を受けて、続くシーンで、新しい規則を確認する柳生(中村倫也)が映し出される。規則には「二個年」「免状」などの言葉が並んでおり、どうやら看護婦の資格に規制が加えられる模様。寛太が考えるように、お上が本当に困っている人を助けないなら、ツヤが看護婦になろうとするタイミングで、制度が壁となって立ちはだかるのだろうか?
第122話では、りんと虎太郎のシーンがあった。りんが虎太郎に「大人になったなあと」と言い、それに対して「でも、大人になってからだいぶ経つよ」と返す一連の会話だ。今作では、登場人物がみな一様に若々しく、老いないことが指摘されている。出演者が若いためメイクが奏功しない可能性はあるが、歳を取らない現象を作中のキャラクターが自己言及しているようで、ユーモラスなやり取りに笑みがこぼれた。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















