『Tシャツが乾くまで』千葉行利Pが最終回に込めた願い 私たちの“フィルター”を外す物語

『Tシャツが乾くまで』千葉Pが込めた願い

 先の読めない展開と、繊細な芝居と演出で、放送のたびに大きな反響を呼んできた金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)が、いよいよ今夜、5分拡大で最終回を迎える。

 登場人物の詳しい情報を伏せたまま始まった物語。身近な人を失っても感情をあらわにせず、ときに笑みさえ浮かべる登場人物たち。それぞれが何を考えているのか。どうしてこうなったのか。決してわかりやすいドラマではない。でも、だからこそ夢中になった視聴者も多くいたはずだ。

 主演・蒼井優×脚本・生方美久×監督・土井裕泰というゴールデンタッグで挑んだ実験的とも言える本作。そのプロデューサーを務めた千葉行利に、制作時の葛藤、俳優たちと作り上げた人物像、そして物語の先に託した願いを聞いた。

「こういうドラマ」という先入観のフィルターを外して

――回を追うごとに話題を集めてきた本作ですが、どのように企画が始まったのでしょうか?

千葉行利(以下、千葉):テレビドラマというのは通常、どういう物語なのかを1〜2行で示す“ログライン”と呼ばれるものを決めて進めていくんです。「◯◯なサスペンス」とか「□□なラブコメディ」といったように。でも、今作については脚本家の生方さんと打ち合わせをしていくうちに、「こういうジャンル」と決めるものではないという話になりました。むしろ、「そういったフィルターをかけてほしくない」という気持ちが強くなっていったんです。オンエア前に情報をあまり出さないようにしていたのは、そうした狙いがあってのことでした。

――第1話が放送されるまで、登場人物たちの名字もわからず、関係性が読めないところも新鮮でした。

千葉:気づいたら関係各所でかなり徹底的に隠されるようになっていて、僕自身も「そこまで隠す?」とクスッとしていたくらいです(笑)。でも、ジャンルを決めずに観てほしいと思いつつも、「ノンジャンル」という言葉もちょっと違うなという思いもありました。ヒューマンも、サスペンスも、ミステリーも、ラブも、おそらく全部ある。なので、むしろ「オールジャンル」なんじゃないかという方向性で、台本を作っていきました。

――「オールジャンル」の物語を描き始める上で、まずどのような問いがあったのでしょうか?

千葉:打ち合わせを重ねていくなかで、浮かび上がったのは「他人に対する目線って厳しいよね」という話でした。自分のことはけっこう簡単に許すくせに、他人のことになると厳しい。たとえば、不倫をした人や家族が亡くなったりした人が笑顔でいると、「どうして?」と疑問を持たれる。その人がどんなに心を痛めていたとしても、そう見えない限り、厳しい眼差しを向けてしまうことって多いように思うんです。そんなモヤモヤをドラマとして描けないかと模索していきました。

――物語の後半になるにつれて「そんなことがあったの?」と、登場人物たちの背景が次々に明らかになっていく展開にも驚かされました。人物設定は、最初から細かく決めていたのでしょうか?

千葉:「ラストはここに着地するから、こう展開していきましょう」という作り方ではありませんでしたね。もちろん打ち合わせではいろいろ話してはいきましたが、生方さんも途中途中で迷いながら「こっちの方向でいきましょうか」と試行錯誤しながら作り上げていきました。

演出、演技、音楽で挑んだ、語られない感情

――人物たちの本音や裏側が、セリフだけではなく映像からじわじわと見えてくるところも印象的でした。演出を担当する土井裕泰監督には、どのような魅力を感じていますか?

千葉:土井さんがお上手なのは、人と人との距離感みたいなものを、生方さんの本の行間からしっかり読み取られるところですね。そこが今回の作品とすごくマッチしていると思います。生方さんの脚本って、“ここでドカンとセリフを言うだろう”というような場面で、あえて言わせないところがあるんです。はっきりと言葉にしない分、どっちの感情にもとることができる。そのことで少し謎が残るんです。

――たしかに「この言葉どういう意味だろう?」と思わされることも多かったです。

千葉:そうですよね。僕も最初に脚本をもらったときに、「なんでここでこんな話をしているんだ?」なんて思うことがありました(笑)。でも、あとで戻ってみると、「ここの『……』が、あれにつながっていたのか!」とわかる。そんな生方さんの脚本を、土井さんはすごく繊細に判断しながら表情を撮っていくんです。だから、あとになって真相や理由がわかったときに、「あのとき、ああいう表情をしていたのはこういうことか」とつながってくる。そういうところを本当に丁寧にやってくださっているので、土井さんにお願いして本当によかったなと思います。

――謎が謎を呼ぶ展開に、SNSでは考察合戦が繰り広げられました。一瞬だけ映った充の運転免許証だけで「6回再発行されているのは、逃避癖があるからでは?」と早々に予想している方も見受けられました。

千葉:こちらとしては「ここに引っかかってね」と強く意図しているわけではなかったのですが、もちろん架空の小道具ですし。でもそうした細かな画作りによって一人ひとりがどういう人物なのかを知るヒントにはなっていたとは思います。

――スピッツの書き下ろし主題歌「見えない糸」も、このドラマにはこの曲しかなかった、と言いたくなる楽曲です。

千葉:もちろんドラマ主題歌は、いろいろな可能性を考慮して決めていくので、候補としてたくさんのアーティストの方の名前が挙がるものです。そこは多少制作陣の趣味も入ってくるというか(笑)。生方さん、TBS制作陣、僕自身もスピッツが大好きだったので、スケジュール的に相当厳しい中ではありましたが、全力でお願いしました。草野マサムネさんが「今まで観たことがない新しいタイプのストーリー」とコメントされていましたが、スケジュールとしてもドラマの内容としても、難題が多い中で本当に素晴らしい曲を書き下ろしてくださったと感激しています。「ちゃんと寄り添えますように」という優しいコメントまでいただいて、本当にお願いしてよかったなと思っています。

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