『Tシャツが乾くまで』“言わないやさしさ”の行方 “充”松山ケンイチの帰還が意味するもの

『Tシャツが乾くまで』充の帰還の意味

 おそらく咲子も千鶴も、人からかけられる迷惑には比較的寛容なのだろう。例えば、知り合って間もない樹生から突然、翔の保育園お迎えを頼まれたときも、咲子は嫌な顔一つせず親切に対応した。千鶴も職場では頼れる姉御として慕われていることから、部下のケアも気持ちよくこなしているのだろう。だからといって、「お互い様なのだから、迷惑をかけてもいい」という考えにはならなさそうだ。

 それは、相手を不快にさせたくないから迷惑をかけたくないというより、誰かに迷惑をかける自分自身を軽蔑したくない、という感情にも見える。だが、人からの迷惑を受け入れてばかりいると、“いい人モード”で抱え込んだものが、どこかで溜まっていく。その感覚は、相手に言いたくないことを「言わなくてもいい」と配慮し続けることで、自分のなかにモヤモヤが膨らんでいくのと近い。親しき仲にも礼儀あり。けれど、親しいからこそ積もっていくものもある。

 “言わなかったこと”も、決して“なかったこと”にはならない。それは相手を気遣う、というフィルターに少しずつ引っかかり、やがて詰まっていく。心がからりと乾かなくなっていく。「言いたくないことは言わなくていい」関係は、フィルター掃除をしなくてもいい乾燥機がないのと同じくらい、現実には難しいことなのだろう。

 言いたくないことを聞いて誤解やモヤモヤを解消したり、自分の気持ちがきちんと伝わっているのかを確認したりする。それはある意味で、相手に迷惑をかけることなのかもしれない。けれど、そうして初めて風通しのいい関係になれることもある。

 迷惑をかけたくない相手と良い距離を保とうとするほど、自分のフィルターには溜まっていく。そのジレンマを越えて、言いにくいことまで言えるだけの信頼関係や空気を一緒に育んでいくことこそ、本当の意味での気遣いなのではないだろうか。

 樹生は咲子に一緒に住むことを提案するが、咲子ははっきりと「無理」だと伝えた。そのやりとりは心を乱すものだったかもしれない。でも、その言いにくいことを言ったからこそ、二人はそれまでよりもさらに楽にいられるようになった。「楽」というのは、何もしないことではない。嫌なことや気まずいことがあっても、それでも関係を継続していけることなのだろう。

 かつて咲子と充が決めた「言いたくないことは言わなくていい」という約束。それは相手を尊重するためのやさしさだった。けれど樹生との関係を通して、咲子は少しずつ、“言わないやさしさ”だけでなく、“言える信頼”も手に入れ始めている。

 樹生という味方を再確認し、ようやく“充のいない人生”を受け入れようと前を向いた咲子。そんな彼女の前に、充が「ただいま」と帰ってきた。最も多くの“言わなかったこと”を抱えているであろう二人。いよいよ、そのあいだに溜まっていたものを、本当の意味でフィルター掃除するタイミングが来たようだ。

■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs

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