『オデュッセイア』が越えるジャンルの壁 クリストファー・ノーラン流“エンタメ幕の内弁当”

クリストファー・ノーラン流の幕の内弁当。主食の白米、おかず数品、箸休め、ちょっとしたデザートもある。それでいて店の個性も光っているのは偉い。そんなわけで『オデュッセイア』(2026年)である。
神話の時代を舞台に、凄い王様(マット・デイモン)が戦争に出かけたらいろいろあって帰れなくなるけれど、すごい頑張って母国に帰ってくる。ビックリするほどシンプルなあらすじだが、そこはノーラン。今回も一筋縄ではいかない。しかし一方で、今回はかつてないほど様々なジャンル映画の要素も取り入れている。まさにノーラン流エンターテインメントてんこ盛りである。
序盤からノーランは全開だ。今や「ジョン・ウーと鳩」「ブライアン・デ・パルマと分割画面」「アントワン・フークワと超カッコいいデンゼル・ワシントン」に並ぶ名物となった、必殺のノーラン時系列シャッフルが炸裂。登場人物が次々と登場し、場所と時間がせわしなく切り替わる。正直、顔と名前が一致しない瞬間も出てくるが、「トム・ホランドは未熟な若者なのね」「アン・ハサウェイは忍耐の人やね」「ロバート・パティンソン、こういう役が似合うわぁ」などなど、なんとなく主要キャラの立ち位置は分かる。オールスター映画なのは、このためだと思う。この脳の記憶をつかさどる部位に、特殊な経路で訴えてくる感覚、ノーラン節である。
そんなわけで掴みから「ノーラン映画を観てるなぁ」と思うわけだが……やがて映画はこれまでにない方向へ走り出す。様々なジャンルの壁を越えてゆくのだ。象徴的なのは「一つ目の巨人=キュクロプス」の登場だろう。キュクロプスは断りなく、本当にヌルっと出てきて、人間を頭からバリバリ食う。普通なら「あの洞窟には怪物が住んでいると噂っすよ、先輩」みたいな前フリの会話を入れそうなものだが、本作にそういったものは存在しない。それでいて『ゴジラ』(1954年)や『ゴジラ-1.0』(2023年)っぽい画を出して、怪獣映画的なワクワク感を演出してくれる。
しかしキュクロプス以上に一番印象的だったのが、サマンサ・モートン演じる魔女キルケだ。キルケは自分の家にやってきた兵士を魔法で豚に変えてしまうのだが、ここが予想以上のグロテスクさ。近年のボディホラー感で見せてくれる。キルケに出された食事を食べるうち、兵士らは術にかかってしまい、食べる手を止められなくなってしまう。キルケはメシを食べる男たちの顔面の肉を練って豚に変えていくのだが、その光景を目の当たりにしても兵士たちは食事をやめられない。この「恐怖しながらドカ食い」というシチュエーションや、絶妙に嫌な感じの肉の部位(豚のガツかな?)も印象的である。しっかり怖かったし、子どもならトラウマになるだろう。






















