『風、薫る』“ツヤ”東野絢香はりん&直美にとってどんな存在? 看護の責任をめぐる歩み

NHK連続テレビ小説『風、薫る』第25週「風媒花」から、懐かしい人物がりん(見上愛)と直美(上坂樹里)のもとを訪れる。かつて帝都医科大学附属病院で看病婦として働いていたツヤ(東野絢香)だ。第13週で病院を去って以来の再登場となるが、ツヤはりんと直美が看護婦として歩んできた道を振り返るうえでも、忘れることのできない人物である。
ツヤと2人が出会ったのは、りんたちが看護婦見習いとして帝都医大病院で実習をしていた頃。当時の病院では、それまで患者の世話を担ってきた看病婦と、西洋式の看護を学んだトレインドナースの間に大きな溝があった。長年現場で働いてきた側からすれば、突然やってきた若い見習いたちに新しい看護を持ち込まれるのだから、面白くないのも無理はない。ツヤもまた、最初からりんたちを温かく迎え入れたわけではなかった。

そんなツヤの印象を大きく変えたのが、喜代(菊池亜希子)とのやりとりだ。患者の子どもの面倒を見る喜代に注意したツヤだったが、喜代は子どもができなかったことを理由に夫から離縁され、実家にも居場所をなくした末に看護婦を目指した過去を明かす。実はツヤも子どもに恵まれなかったことで夫から離縁され、生きるために看病婦になった女性だった。最初から「人を救いたい」という志があったわけではない。働かなければ生きていけないから、この仕事を選んだのである。
だからこそ、自分と似た境遇を抱えながら、看護婦として新たな生き方を見つけていく喜代の姿は、ツヤの心を動かしたのだろう。りんたちが養成所を卒業して病院へ戻ると、ツヤは自ら「看護婦の勉強をさせてください」とりんに頭を下げる。生活のために始めた看病婦の仕事が、いつしか自分の意思でその道の先へ進みたいと思えるものに変わっていた。

ツヤの願いを誰よりも真剣に受け止めたのがりんだった。院長の多田(筒井道隆)に掛け合い、仕事をしながら看護科の授業を受けられるように奔走する。学生たちもまた、現場経験の豊富なツヤから実技を教わり、代わりに勉強を手伝うようになった。かつては対立していた看病婦とトレインドナースだが、それぞれが持つ知識や経験を教え合うことで、少しずつ互いを補い合う関係へと変わっていったのがこの頃だ。
しかし、仕事をしながら勉強を続ける生活はそう簡単なものではなかった。ツヤは寝る間も惜しんで勉強し、次第に疲労を溜めていく。そしてついには患者への薬の投与を忘れるという重大なミスを起こし、病院を解雇されてしまう。

ツヤのミスを受けて、りんは誰よりも自分を責めてしまう。りんにとってツヤは、自分たちの看護に触れたことで看護婦を目指し、その思いを託してくれた相手でもあった。だからこそ、疲れていることに気づきながら止められなかったことを悔やみ、ツヤが病院を去ったあとも家に帰らず働き続けるほど自分を追い込んでいく。そんなりんに「無理してもツヤさんへの罪滅ぼしにはならない」と声をかけたのが直美だ。誰かのためとなると自分のことを後回しにしてしまうりんなだけに、そんな彼女の無理に気づき、言葉をかけられる直美の存在は大きかった。
そしてツヤの一件は、りんと直美に教える側でいることの責任も突きつけた。看護の知識や技術を教えるだけではなく、その人が無理をしていないか、どんな状態で仕事や勉強に向き合っているのかまで見なければならない。ツヤが看護婦を目指したことも、それを応援したりんたちの思いも間違ってはいなかった。それでも、気持ちだけではどうにもならないことがある。2人にとっては、そのことを初めて身をもって知った経験だったのだろう。
一度は夢半ばで病院を去ったツヤが、その後どんな人生を送ってきたのか。そして、かつて彼女を支えきれなかったりんと直美は、今のツヤとどう向き合うのか。久しぶりに画面で見られるのも楽しみだが、かつて途中で途切れてしまった3人の関係が、どのような形で再び動き出すのかにも注目したい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















