『あんぱん』はなぜ“戦争”を丹念に描くのか 制作統括が込めた“変わらない正義”への問い

NHK連続テレビ小説『あんぱん』が現在放送中。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢夫婦をモデルに、何者でもなかった2人が“逆転しない正義”を体現する『アンパンマン』にたどり着くまでを描く。
劇中でのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は幼少期に出会い、これまで「一番古い友達」として過ごしてきた。だが、実際にやなせと暢が出会ったのは大人になってからのこと。史実とは異なる幼なじみ設定について、制作統括の倉崎憲はこう語る。
「幼い頃に父親を亡くした喪失感や弟・千尋へのコンプレックスも含め、やなせさんの幼少期から10代を描かなければ、やなせさんを描いたことにはならないと思っていました。史実通りに高知新聞社で2人が出会うところから描き始めても、この企画をやる意味がまったくない。ですから、2人を幼少期から描くことには必然性がありました」

さらには「やなせさんの自伝などから、暢さんについて『ハチキンおのぶと言われていた』『足が速くて韋駄天おのぶと呼ばれていた』というキャラクター性は垣間見えますが、具体的に『何年何月に何をしていた』まではわからない。だからこそ、脚本の中園(ミホ)さんの創作性を生かして描いていこうと、チームで覚悟を決めました」と続け、「高知新聞社入社以降の出来事は、基本的には史実に寄せていく予定でいます」と説明した。
物語は第11週。これまでにも戦争にまつわる描写は幾度となく登場してきたが、嵩の出征によって本格的に戦争パートに入った。
倉崎は「2025年は放送100年ですが、僕にとってはそれ以上に戦後80年という節目が重要でした。この年に朝ドラで何を描くべきかと考えたとき、戦地に数年間行かれていたやなせさんの存在は大きいのではないかと。やなせさんと暢さんご夫婦を朝ドラでやりたいと思ったのは、やなせさんのいろいろな著作を読んでのことですが、なかでも『ぼくは戦争は大きらい』という書籍があって。中園さんと2回目にお会いしたときに、その本をお渡ししたのがそもそもの始まりでした」と、やなせの戦争体験こそが企画の出発点だったと明かす。

これまでにも数々の朝ドラ作品で戦争について描かれてきたが、ヒロインを中心とした“戦時下の暮らし”に焦点が当たることが多かった。だが『あんぱん』では、やなせが実際に経験した前線でのエピソードなど、より踏み込んだ描写がなされている。
「やなせさんが戦地で一番つらかったのは空腹だったと。それが『アンパンマン』につながる要素の一つでもあるので、かなり早い段階から戦争パートをしっかりと描こうとチームで決めていました。(終戦から)80年経った今なお戦争が続いている中で、やなせさんの体験を描くことには大きな意味があると思っています」