盟友のように心を通わせる倍賞千恵子と木村拓哉 『TOKYOタクシー』は山田洋次の真骨頂に

映画が娯楽の中心であった時代から数々のヒット作品、シリーズを手がけてきた、現代の日本映画界の生ける伝説といえる山田洋次。そんな監督が手がけた最新作が、同じ週に公開のアニメ作品『果てしなきスカーレット』の成績を上回り、国内の週間興行ランキング1位を記録した。倍賞千恵子主演×木村拓哉共演作品『TOKYOタクシー』である。日本でもヒットしたフランス映画『パリタクシー』(2022年)の日本版リメイクである。
この映画は封切り後に新宿の劇場で鑑賞したのだが、近年の山田洋次作品がそうであるように、シニア世代の観客を中心に、客席が埋め尽くされていた。『男はつらいよ』シリーズをはじめとした国民的な監督のタイトルであるだけに、楽しめることが約束された安心のブランドということなのだろう。
そうでなくとも2025年は、『国宝』が日本の実写映画における興行収入第1位になり、洋画が不振のなかで『教皇選挙』が異例の大ヒットを達成するなど、中年以上の観客やシニア世代が原動力となったと見られる興行的成功が目立った。少子高齢化といわれる社会状況において、この傾向は今後も続いていくとみられる。
TV業界では、いわゆる「2時間ドラマ」の制作が減り、インターネットを利用した配信サービスがシェアを獲得していて、劇場でもアニメ作品を中心に若者向けのタイトルが多い状況下である。「いったい、何を観ればいいのか」と考えるシニア世代が、限られたジャンルに集中するのは、考えてみれば必然的なことなのかもしれない。
そんな多くの観客の受け皿として機能する山田洋次作品の中でも、本作『TOKYOタクシー』は、実に味わい深く郷愁を誘う内容となった。なにせ、『男はつらいよ』シリーズで長年の間、主人公の寅次郎の妹役“さくら”を演じていた倍賞千恵子が、その役柄を連想させる“すみれ”という役名で登場し、住まいが葛飾区柴又にあるという設定なのだ。これは、“寅さん”世代へのサービスであるとともに、山田監督がキャリアの初期から仕事をしてきた倍賞千恵子との濃密な歴史を感じさせる趣向である。木村拓哉演じるタクシー運転手・浩二は、わざわざ柴又のアイコンである「帝釈天」で、すみれを拾うことになる。
すみれの行き先は、神奈川県・葉山の海辺に建っている高齢者施設。身寄りのない彼女は柴又の自宅を手放し、一人で施設に入居するためタクシーを利用するのである。すみれは浩二に、東京を離れる前に思い出の場所を巡っていきたいと言う。その要望通りに、浩二は彼女の若い時代の話を聞きながら、東京のあちこちを行ったり来たりする。映画の内容のほとんどは、そこで交わされる会話シーンや、蒼井優が演じる、若い時代のすみれの回想ということになる。
そこまで聞くと牧歌的な話だと思ってしまうが、すみれの思い出語りは次第に深刻なものになっていき、なんと昭和史に残るレベルの、ある重大な事件へと繋がっていくのだ。とんでもない話に、思わず呆気に取られる浩二だが、だからこそ、それを語る彼女の、けして上品なだけではない、力強い反抗精神のある人間性に惹きつけられていく。世代が違う者同士の一日だけの交流ながら、ふたりは盟友のように心を通わせるのだ。























