奥野瑛太は作品の“ムードメーカー”だ “鬼軍曹”神野万蔵が『あんぱん』に与える緊迫感

放送中の朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)は、この第11週「軍隊は大きらい、だけど」から大きく展開が変わった。タイトルからも想像できるとおり、物語は柳井嵩(北村匠海)が戦地に赴くため、彼の軍隊での生活を描いていくタームに入ったのだ。嵩は高知連隊から、勇猛果敢で知られる小倉連隊へ転属。さっそく先輩兵士たちからの厳しく理不尽な“指導”にさらされているところである。そんな場をしきっているのが神野万蔵。演じているのは奥野瑛太だ。
本作は、誰もが知るあの『アンパンマン』の生みの親である夫婦をモデルに、ヒロイン・のぶ(今田美桜)と、やがてその夫となる嵩の激動の生涯を描いていくもの。日本中で愛され続けるキャラクターがいかにして誕生したのか、私たちはこの『あんぱん』という作品をとおして知ることとなる。のぶは他の男性と結婚してしまい、いまの嵩に漫画家を夢見る自由などあるはずもない。絶望状態にあるといえるだろう。何せ彼が足を踏み入れてしまったのは、ほとんど地獄なのだから。

奥野が演じる神野は、嵩が所属することになった内務班の班長。嵩ら初年兵だけでなく古年兵のことも容赦なく殴りつける、まさに“鬼軍曹”という言葉が似合いそうな人物である。
先述しているように、この第11週から『あんぱん』は大きく変わった。大切な者たちとの別れが描かれるたび、私たち視聴者はのぶや嵩の気持ちに寄り添い、胸を痛めてきた。そしてそんな苦しい日々の中にも希望は見つけられるのだと、本作に登場する人々は教えてくれたものだ。だからお茶の間の私たちもまた、前を向いて歩いてこれたのではないだろうか。
けれどもいまは違う。軍の生活の中で嵩が見舞われるのは、あまりにも理不尽な暴力、暴力、そして暴力ーー。たった15分の1話に収められていた暴力描写の連続にショックを受けたのは、私だけではないだろう。「朝ドラ」という幅広い年齢層が触れる国民的エンターテインメントなのだから、ある程度はマイルドなものにするべきだと作り手たちは考えたはず。けれどもほのぼのとした展開が多い作品なだけに、このギャップは凄まじく、恐ろしい。しかし戦争がはじまるというのは、つまりはこういうことなのだろう。日常は一変する。それを肌で感じているところである。




















