山田孝之、清原果耶、横浜流星ら 『イクサガミ』の世界観を成り立たせる名優たちを総括

武士とは、刀を振ることしかできないにもかかわらず、権威を振りかざし、強者だと勘違いし、時代に取り残されたことに気づきもせず、無意味に生きる愚か者たち……。
『イクサガミ』世界における大警視・川路利良(濱田岳)は、明治の世に適応できない士族たちを、このように揶揄している。自らも元・侍であったにもかかわらずだ。奇しくも、今期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』においても、時代に取り残された明治初期の士族たちの苦悩が描かれている。

この『イクサガミ』の登場人物の中で、「刀を振ることしかできない時代に取り残された愚か者」の最たるものが、貫地谷無骨(伊藤英明)だ。だが無骨は、幕末の頃から“恋焦がれた”同じ人斬り・嵯峨愁二郎(岡田准一)に斬られることで、その想いを遂げることができた。
だが、この蠱毒という遊びに参加した愚か者たちは、愁二郎や無骨だけではない。総勢292人の、バラエティーに富んだ志士たちが登場する。原作者・今村翔吾は、X(旧Twitter)アカウントにおいて、それぞれのエピソードを「292人すべてに実は用意しております」と語っている。
離れたところにいる「国領」の姓は、妹と兄なんですよ。妹が先に天龍寺に向かい、兄が引き止めるために向かったという話。
この程度のエピソードは292人すべてに実は用意しております。#イクサガミ https://t.co/nwwlzjQcJi
— 今村翔吾 (@zusyu_kki) September 14, 2025
無駄なキャラクターはひとりもいないのだ。中でも、特に印象深いキャラたちを紹介したい(名前の前の数字は、木札の番号)。
四番・安藤神兵衛(山田孝之)
彼は、この蠱毒を取り締まるために参加者を装って侵入した、京都府庁第四課の警官である。現代の競技剣道のルーツとも言える「撃剣」の一流選手であり、人呼んで「疾風の安神」。彼のことを主催者側の槐(二宮和也)は、例の鼻につく笑顔でこう解説してくれている。
「あと数年早く生まれていれば、数々の人斬りや新選組にも負けなかったと、嘯いてらっしゃる方だ」
蠱毒をやめさせるため、槐に向かってまさに疾風のように走り出した安神だが、蠱毒隊・櫻(淵上泰史)の一太刀で首を落とされる。この櫻の正体こそ、幕末四大人斬りのひとり、中村半次郎である。たった10年ほどの違いとは言え、真剣で命の取り合いをしていた世代と、竹刀や木刀による競技としての剣術しか経験のない世代では、これだけの違いがあるのだ。数々の人斬りにも負けなかった……。大きな勘違いだったようだ。
事前の発表で「疾風の安神役は山田孝之」との発表があった際、原作既読の方々は、「あの山田孝之が演るのなら、さすがにすぐには死なないだろう」と思ったのではないか。なにしろあの山田孝之なのだから。いざ配信を観ると、ちゃんと原作通りに気持ちよく一瞬で死んだ。一部ネットで「山田孝之の無駄遣い!」との声もあるが、そうは思わない。山田孝之ほどの大物が演じるこれだけ強そうなキャラですら、瞬殺されてしまう……。いかにこの蠱毒というものが恐ろしいか、一瞬で理解できてしまう。山田孝之は、実働2分で、実に大きな仕事を成し遂げた。
十九番・菊臣右京(玉木宏)

疾風の安神に続き、蠱毒の恐ろしさを知らしめる大きな役割を果たしているのが、“公家の守護神”菊臣右京である。代々公家の警護を務めてきた菊臣家の当主であり、その立ち居振る舞いから戦い方に至るまで、常に気品が漂う。いかなる修羅場であろうとも余裕ある態度を崩すことなく、天龍寺通過も一番乗りである。
この右京の対極の存在と言える貫地谷無骨が、蠱毒に関係ない一般人にまで刃を振るうさまを見た彼は、無骨の前に立ちはだかる。
「外道、参加者以外に手を出すな」
「早くお逃げなさい」
その姿は、昔から時代劇で観てきた正義の味方そのものである。絶対に時代劇好きの年配の方々からの受けが良さそうなキャラであり、この時点で右京が負けることは想像できない。事実、大振りの無駄振りが目立つ無骨に対し、シャープでコンパクトかつ無駄のない剣さばきで、右京は無骨を圧倒してしまう。斬馬刀も弾き飛ばされ、無骨絶体絶命かと見えたが……。
無骨は、右京の刃を素手で掴む。そこから一気に刀を引き抜けば、無骨の指はすべて落ちるだろう。だが、ある意味正統派の剣術を修行してきた右京にとって、このような展開は想像すらしたことがなかったのだろう。動きが固まった右京は、無骨に嚙みつかれ、右親指を食いちぎられる。同じく右京にとっては、「武士が嚙みつく」など思いもしない行為であり、完全にペースを乱されてしまう。
結果、場面変わって首だけになっている右京。この時点で第2話である。第1話の山田孝之に続き、「蠱毒がいかにバケモノ揃いかを示すためだけに殺される大物」となった玉木宏。すばらしくぜいたくな俳優の使い方だ。
九十九番・柘植響陣(東出昌大)

その胡散臭い関西弁が一部で話題の東出響陣。「ネイティブ関西人の岡田准一には、アクションプランナーだけではなく方言指導もやってほしかった!」と一瞬思ったが、しばし思いとどまってほしい。原作によると、この響陣は「訳あってあえて関西弁を喋っている非・関西人」なのである。だからこその、あえての胡散臭い関西弁なのではないか。
関西弁はともかく、公称189㎝の彼のアクションは、非常にダイナミックだ。脚が長いので、蹴りが映える。彼の殺陣で、もっとも驚いたシーンがある。警官2人との戦闘において、寝技で下になってしまう。対複数の戦闘において、寝技になる時点で命取りだ。もうひとりの敵に対処することができない。案の定、銃で狙われてしまうのだが、響陣はブラジリアン柔術で言うところのラッソーガードの状態で上の人間をコントロールして動かし、銃撃からの盾にしてしまう。このラッソーガードは、相手の片腕に自らの片足を巻き付けて相手をコントロールする技術で、基本的には1対1の攻防しか想定していないと思われる。この技術を対複数戦に応用した、アクションプランナー・岡田准一の発想力が恐ろしい。
また、この時代の日本古来の柔術における寝技は、「上を取る」ことが最重要課題であり、「あえて下から攻める」という概念はなかったと思われる。だが、響陣は元・忍者である。正統派とは異なるあらゆる局面を想定した体術を、マスターしていそうな説得力がある。




















