劇場版『わたなれ』の反響でアニメ映画界激震 唯一無二の“ゴミ”映像体験を見逃すな

劇場版『わたなれ』の反響でアニメ映画界激震

2025年のアニソンを象徴する1曲「ムリムリ進化論」

ナナヲアカリ『ムリムリ進化論』 × TV アニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』 コラボレーションMV

 〈ムリ、ムリ!〉

 ナナヲアカリ楽曲が劇場に響き渡り、意表を突かれる。

 9月まで放送されていたアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』のOPテーマ「ムリムリ進化論」は、11月21日公開の劇場版『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)~ネクストシャイン!~』(以下『ネクストシャイン』)のOPとしても採用された。

 ナナヲアカリによる同曲のMVは、アニメとのコラボレーション版をあわせるとすでに500万再生を突破しており、続編映画である『ネクストシャイン』での採用も頷ける。TVシリーズの初代OPが、最終回のクライマックスシーンや劇場版作品などでも使われることによるエモーショナル喚起は、多くのアニメファンが好む演出だろう。

 それにしてもわずか2カ月で回収されるこのスピード感には度肝を抜かれる。

 そして本編の構成も「怒涛」と言うほかない。主人公・甘織れな子は本編開始時点で2人の女性から恋の告白を受けており、返答の責任をめぐって自問自答している。しかしある日、コスプレイベントに出場した経験から、かねてより身についてしまっていた自虐癖を(部分的に)克服、成熟を果たしたれな子は2人に「真摯」に向き合うのだった。

 雑に要約してしまえば、2時間足らずの間でハーレムラブコメ(≒『五等分の花嫁』など)と推し活エンパワーメント(≒『その着せ替え人形は恋をする』など)の作劇を劇場版クオリティで見事に両立させている。ハーレムラブコメ的展開が生み出す二者択一の責任と、推し活=コスプレによる自己肯定、それぞれのドラマを過不足なく掛け合わせ、少女の成長譚として成立させた(キービジュアルのコピーには「わたしはわたしを、好きになりたいから!」とある)。異なるジャンルの主題を2時間弱の間に描き切る構成は見事と言うほかない。

 ところがこの感動を、主人公自身がすべて台無しにする一言を終盤に提示するダイナミック構成で、全観客は苦笑の渦に巻き込まれる。

 細田守の最新作『果てしなきスカーレット』が(興行的には)振るわないなか、この苦笑いの快楽のトリツカレ男になったオタクたちが連日劇場を満員にしている。期間限定上映ながら上映回数を増やす劇場も現れ、新宿バルト9はレイトショーまで満員。上映期間延長もありえない話ではなくなってきた。『鬼滅の刃』『チェンソーマン』『呪術廻戦』に連なる集英社IPというだけのことはある。

 『ネクストシャイン』は続編TVシリーズの5話相当分を先行上映する編集版で、ちょうど『呪術廻戦』第3期の先行上映版である「死滅回游 先行上映」と同じような上映形態だ(先行上映の分量としては『ネクストシャイン』のほうが圧倒的に充実しているが)。れな子を取り巻く恋のライバルたちが傷つき、しのぎを削りあうという意味でも実質「死滅回游」である。

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