『ばけばけ』は“気温”まで伝わる朝ドラ？　ヘブン語週タイトルに込められた思いも

　髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン（小泉八雲）をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。

　第10週では、松江に大寒波が到来。寒がりなヘブン（トミー・バストウ）はストーブや暖炉のない日本の冬を「ジゴク」だと言い、強烈な寒さに右往左往する。

　制作統括の橋爪國臣は「実際、あの年（1890～1891年）の松江には大寒波が来ていて、通常の冬に比べて相当寒かったはずなんです。そこでハーンが“学校を1カ月休んだ”といった史実もあり、それを参考に物語を作っています」と展開の経緯を明かす。

「ハーンはとても寒がりで、松江にいた間はずっと『寒い寒い』『南に行きたい、南に行きたい』と言っていたようで、そのあたりのエピソードも取り込ませていただきました。もちろん、ただ寒いというだけでは面白くないので、寝込んだヘブンとその看病をするトキ（髙石あかり）といった流れも含めて、それが物語に絡むように。おそらく終盤まで、寒さに関する話はいろいろと出てくると思います」

　では、画面から直接伝えることができない“気温”をどう表現するのか。橋爪は「寒さの表現はなかなか難しいんです」とし、「寒く見えるような色味に調整したり、風の強さや冷たい空気感を音でも作っています」と説明。「春には春の鳥がいっぱい鳴いているし、冬には冬の鳥が鳴いている。そこから季節の匂いも感じられると思うので、音にはかなりこだわっています」と続けた。

　ちなみに、ヘブンを慕うリヨ（北香那）が湯たんぽを用意する展開は本作のオリジナルで、「『何かしら日本的な温かいものを考えよう』という話し合いの中で生まれたものです」とも。12月に入り、いよいよ冬本番となったこのタイミングでこれらのエピソードが描かれたことについては「『ちょうど合わせた』と言えればいいんですが、たまたまです」と笑った。

　そんな第10週のサブタイトルは、「トオリ、スガリ」。第48話でヘブンが小谷（下川恭平）の通訳を介して、「たとえ死んでも悲しまないでください。私は通りすがりのただの異人です」と話したことをきっかけに、トキの中で引っかかるワードとなっていく。

　週タイトルは台本作成の段階では決まっておらず、すべての編集が終わった後に決定。橋爪と同週の演出担当が案を出し、脚本のふじきみつ彦に「どうでしょう」と相談するという。

　橋爪は「週タイトルを決めるときには、いつも迷うんです。あまりにネタバレしすぎてもいけないし、かと言って、芯とまったく違うことをやっても面白くない。できるだけ“核心に触れつつ、ネタバレしない”というタイトルを考えるようにしています」と語る。

「第10週では、やっぱりヘブン自身の“通りすがり”という人生もあるし、さらにはトキと小谷の仲も通りすがりだったりする。いろいろな人生が通りすがっていく、どこにも定住することができない人たちの物語というところから付けました」

　なお、この“通りすがり”は第11週まで続くキーワードのひとつ。第8、9週にはスキップが2週にわたり描かれたが、「『2週でワンエピソードにする』ということはあまり考えていなくて、全体の流れで作っています。1週ごとに終わらせようという気持ちもなく、25週全体を通して考えている感じです。もちろん1週ごとに起承転結は考えますが、それぞれが独立して見えるようにはしたくないなと思っています」と話す。

　さらに、「人の日常は『この物語が終わったら、新しくリセットして』みたいなことにはならないですよね」と述べ、「日々が続いていくからこそドラマだと思っているし、スキップもこの先、まだまだやると思います（笑）」と予告した。

　何気ない日常を、何気なく見せる。そのための工夫が、画面の隅々にちりばめられている。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00～8:15放送／毎週月曜～金曜12:45～13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30～7:45放送／毎週土曜8:15～9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30～7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作：ふじきみつ彦
音楽：牛尾憲輔
主題歌：ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括：橋爪國臣
プロデューサー：田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出：村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供＝NHK