『対岸の家事』は自己責任論に疑問を投げかける 令和を生きる人に響いてほしい言葉の数々

自己責任論に疑問を投げかける『対岸の家事』

 『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)放送前の事前情報を見た段階で、「以前、似たようなテーマのドラマがあったな……」と一瞬思った。6年前のドラマ『隣の家族は青く見える』(2018年/フジテレビ系)だ。ところが本作の第1話を観終えた時点で、それはまったくの誤解だったことがわかった。

  平成30年のドラマ『隣の家族は青く見える』は、妊活が実らずに苦しむ主人公夫婦を中心に、同じコーポラティブハウスで暮らす「男性どうしのカップル」「子どもを望まない夫婦」「夫婦仲が冷え切って子育てだけが生きがいの夫婦」という、様々なパートナーシップを描き出していた。物語の結論としては「皆いろんな事情を抱えている」「幸せのかたちは人それぞれ」「『隣の芝生を青く見』ず、ないものねだりをやめて自分らしく生きればよい」というものだった。

 『対岸の家事』はまさにに令和7年の世の中を映したドラマで、さらに数歩先まで踏み込んでいる。「人それぞれ」なのはすでに当たり前のこと。このドラマには、違う属性、すなわち「対岸」にある人と人どうしが互いを尊重し、足りないところを補い合い、助け合いながら共生できる世の中への願いがこめられている。

 主人公の詩穂(多部未華子)は美容師だったが、2つのことを同時にできるほど器用ではないという理由から、自ら進んで専業主婦になり、3歳になる一人娘の苺(永井花奈)を保育園には入れずに家で育てている。近所の子育て世帯は共働きばかりで、昼間の公園には苺の遊び相手や詩穂のママ友になってくれる人の姿がない。

 そんな中、マンションの隣に引っ越してきた礼子(江口のりこ)は、詩穂とは対照的に働くママ。2人は2年間、互いに見てみぬふりをして口を利くこともなかったが、育児休暇が明けて仕事に復帰して、精神的にも肉体的にも限界を迎えていた礼子を詩穂が手助けしたことから、少しずつ打ち解けていく。

 かつて「いまどき専業主婦なんて絶滅危惧種」と詩穂の陰口を言っていた礼子は、詩穂を見下すことで自分の選択が間違っていなかったのだと自身に言い聞かせていた。だが、思い詰めてマンションの屋上から飛び降りそうになった自分を詩穂が引き戻した夜から、立場も、苦しみや悩みのかたちも違うけれど、詩穂と感情をやりとりし、共有するようになる。そして礼子は、かつての自分の態度を詫びる。働くママには働くママの矜持がある。専業主婦には専業主婦の矜持がある。他者への不寛容は「知らない」ことから始まる。このドラマには、他者を「知ることの大切さ」というメッセージもさりげなく仕込まれている。

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