多部未華子は“負い目”を感じる主婦たちの救世主だ 元主婦誌編集者が見た『対岸の家事』

元“主婦誌編集者”が見た『対岸の家事』

 多部未華子が専業主婦を、江口のり子がワーキングマザーを演じているドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)。すでに第3話までが放送され、主婦だけではなく、育休中の男性、休みがちなママ社員を支える独身社員までもが登場し、さまざまな現代人のワークとライフについてドラマ上で考察がなされている。

 第1話では、江口演じる長野礼子が、多部演じる村上詩穂に「専業主婦なんて絶滅危惧種」と嫌味を言うシーンから始まった。筆者は、2000年ごろからほぼ20年にわたって主婦誌に携わっていたのだが、とうとう「絶滅危惧種」と言われるようになったのかと感慨深かった。

 男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年なのだが、1990年代に入っても、「寿退社」という言葉はまだ残っており、女性が結婚と同時に職を失うのは当たり前のことだった。2000年ごろから兼業主婦が半数を占めるようになるが、中身はパートや契約社員といった非正規の働き方が大半だった。そこから徐々にワーキングマザーの数は増えていき、2021年には専業主婦率は23%になっている(※)。これは主婦のいる全世帯での数字なので、子育て世代に限れば割合はより低くなっているだろう。女性が働いているほうが当たり前になり、むしろ働かないことに理由が必要な時代になった。主人公の詩穂も、「2つのことが同時にできない」という自身の特性による理由から専業主婦を選んでいると明言する。

 そして、詩穂の姿は、専業主婦の悩みを見事に描写している。「専業主婦の1日はひとりごとでできている」というセリフはまさに言い得て妙。「今日も子どもとしか喋っていない」「誰でもいいから大人と話したい」というのは、昔も今も変わらない専業主婦の悩みだ。専業の女性たちが最も辛いことは、社会からの断絶である。かつての主婦誌読者たちも、一様にその悩みを訴えていて、取材などに伺うと、「私のことを見てくれる人がいるんですね」と涙を流す方までいた。さらに今では専業主婦が少ないために、仲間のママ友も、井戸端会議のコミュニティーすらもなくなっており、より孤独が深まっているのだろう。

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