ディーン・フジオカだからこそのおかしみと哀愁 『対岸の家事』中谷役のハマりっぷりを読む

ディーン・フジオカが表現するおかしみと哀愁

 『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)の第2話で専業主婦の詩穂(多部未華子)に初めてのパパ友ができた。厚生労働省勤務の官僚で、2年間の育休を取得した中谷達也(ディーン・フジオカ)だ。志穂が苺(永井花奈)と公園の砂場に行くと、1歳の娘・佳恋(五十嵐美桜)を連れてきていた中谷がいて会話するものの、どこか噛み合わないものを感じる志穂。

 ディーン・フジオカ演じる中谷は、初対面の志穂に対して自信満々に自らの育児計画を語るだけでなく、「専業主婦なんて贅沢」「旦那さんがかわいそう」などと、志穂を見下すような発言を繰り返す。近所のママたちは昼間は仕事をしていて忙しく、ママ友と呼べる存在がほしい志穂は、一瞬「パパ友でもいいか」と思ったことを後悔するほど、中谷に苦手意識を感じる。そして、中谷の正論を聞けば聞くほどモヤモヤするのだった。

 中谷は、いかにも有能、スマートで洗練された雰囲気だが、志穂に対して遠慮が全くない。涼しげで正義感のつよそうな瞳、心地よい声だとしても、いきなり自分の選んだライフスタイルを全否定する人に好感が持てないのは当然のこと。悪びれる様子もなく自分の人生設計は完璧で、志穂は人生を甘く考えすぎていると分かりやすく主張してくる。

 とはいえよく考えてみると、本当に優秀で仕事ができて、人生に迷いのない人は他人と自分を比較して、必要もないのに優劣をつけたりなどしない。まして、さほど親しくもないママ友やパパ友に対して自分と相手の価値観の違いやライフスタイルを比較して、相手を否定したりするだろうか。わざわざ「自分の育児計画は完璧だ」「あなたの人生観は甘いですね」などと、アピールすることもないだろう。

 エリート官僚で最新の情報や知識が豊富でも、中谷にとって育児は初めての経験だ。しかも、妻の樹里(島袋寛子)は外資系の会社に勤めており、ドバイで単身赴任中。「ママ〜」としか言えない1歳児の佳恋と2人きりの生活における割り切れない疲労の蓄積、隙がなさそうに見えてどこか危なげな中谷の心情の揺れがディーン・フジオカの演技から伝わってくる。「水族館つくって」という砂場での苺の一言で、砂場に湖を造成しようとする生真面目さ、真剣な表情も美しく整っているからこそのおかしみ、哀愁も漂う。

 妻の樹里に育児日報を送り、オンライン会議で子育ての詳細を共有。専業主婦のママ友ができたこともすぐに報告していたことは微笑ましい。専業主婦に対して厳しい言い方をするのは、息子に完璧を求めた中谷の母の影響があるようで、察しの良い妻が「その人は達ちゃんのお母さんじゃない」「せっかく話相手になってくれるママ友ができたんだから大事にしないと」とアドバイスすると、素直に動揺。過去のトラウマや家事という終わりのない労働と言葉が通じない1歳児の育児を抱え、育児を仕事のように効率よく考えていた中谷もまた話ができる相手を必要としていたのだ。ネットもあるし、何かと便利な世の中ではあるけれど、やっぱり人間は一人で生きていけないものだ。そんなことを思わせてくれたのが、佳恋が熱性けいれんを起こし、必死で志穂に助けを求めた中谷の憔悴した姿だった。

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