『対岸の家事』が描いた“体験”に対する見解 我が道を行く肝っ玉ぶりを見せた島袋寛子

『対岸の家事』が描いた体験に対する見解

 「学生のうちに力を入れたこと」、通称「ガクチカ」。主に就活で問われることの多いガクチカについては、そこから引き起こされる「体験格差」が問題にもなっている。このガクチカについて「親から子どもに送るギフト」であり「武器」と言い切る中谷(ディーン・フジオカ)と、それに反発する詩穂(多部未華子)の構図が描かれた『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)第5話。

  実家と疎遠になっている詩穂も中谷も、同じく親の都合で“体験”を奪われた側だった。妻を亡くして以来容赦なく娘に家事を押し付ける父親(緒形直人)から逃げ出した詩穂は、続けたかった部活も辞めざるを得なくなり、延々お喋りして夕飯の時間を気にせず友達と遠出するなんて到底叶わない高校生活を送っていた。

 一方で、第4話で「近くても遠くても僕は実家に頼るつもりはありません」「母のことが許せない」と断言していた中谷は、専業主婦だった母親から東大に入ることを課せられ、部活にも入らず友達も作らず、ただひたすら勉強する高校生活を過ごしたようだ。「勉強していたら終わってました、それが僕の高校生活です」と振り返る中谷の様子は「もう取り戻せないもの」の大きさが滲み切ない。度々繰り返される回想シーンでは、中谷が母親に電動泡立て器を振り落とされ、ドリルの上に血痕が飛ぶ様子が挿入される。子どもの成績に過度にコミットし、自分の希望通りの学校に入学させることに囚われすぎてしまった母親が専業主婦だったからこそ、中谷は同じく専業主婦の詩穂に母親の残像を重ね合わせ、出会った当初は攻撃体勢に入ってしまっていたのだろう。

 「みんな、自分が持ってないものの話になると冷静じゃなくなるんだよ」とは、同じく第4話で虎朗(一ノ瀬ワタル)が呟いた言葉だが、自分が持っていないからこそ子どもには存分に様々な経験を与えたいと思う中谷と、苺(永井花奈)のやりたいことを思いっきりやってほしいと願いながら、今は一緒に過ごす時間を大切にする詩穂。中谷は習い事のレッスン中、ついつい娘に集中するようにきつく命令してしまう自分に母親の姿を思い出し、詩穂は「私が専業主婦を選んでいることで苺から何らかの機会を奪っていたら……」と突然不安に襲われる。

 そんな詩穂にワーママの礼子(江口のりこ)が「毎日いろんなものを苺ちゃんにあげてると思う。苺ちゃんとずっと一緒にいるから、詩穂ちゃんが専業主婦だから苺ちゃんにあげられているものもあると思う」とすかさず話す様子に、彼女たちの初対面が嘘のように思える。当時は「主婦なんて絶滅危惧種」と一蹴していた礼子も、自分の理想と現実のギャップに今は強がりすぎず向き合えるようになったのだろう。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる