佐野勇斗は作品を“背負う”役者だ 『おむすび』翔也は“もうひとりの主人公”に

佐野勇斗は作品を“背負う”役者だ

 とりとめもなく書き連ねてしまったが、仮に翔也がいなかったらと考えると、その役割の大きさが実感できるだろう。翔也がいなかったら、震災のトラウマを引きずる結の内省が作品のメインとなり、ドラマのダイナミズムは失われていたかもしれない。ギャルの象徴的な意味あいは翔也が真似して否定されたことで鮮明になった。共働きの翔也がいなかったら、結は出産後に管理栄養士にステップアップできただろうか。聖人と愛子(麻生久美子)が糸島へUターンできたのも、翔也が神戸の店を守ってくれるからだ。

 ドラマ後半の翔也は、描かれない部分で『おむすび』の世界を支えてきた。背負ってきたとも言える。筆者は、佐野勇斗は作品の世界観を引き受ける役者だと思っている。佐野をはっきりと認識したのは『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(TBS系)だった。佐野は、特殊車両のERカーを運転する技師の徳丸を演じていた。要はなんでも屋の徳丸を、MERの一員としてそこにいる必然性があると感じさせる演技をしていた。そして、劇中で誰よりも率先して現場に飛び込んでいた。それ以来、佐野が出演していると注目するようになったが、求められる以上のことを当たり前を超える熱量でやる人、というのが佐野に対する率直な印象である。

 きっと義理人情に厚いのだろう。単体でメディアに露出するときも、必ずと言っていいほど自身が所属するM!LKの話題に言及する。ここでも佐野は背負っていて、当たり前のようにメンバーや周囲のことを気にかけている。そんな佐野にとって『おむすび』の翔也は佐野のためにあるような役である。コロナ禍で医療従事者の結が原因で花がいじめられたとき、別宅で暮らす結に玄関のドア越しにメッセージを伝える「だいじだ」の安心感は絶大だった。

 あえて苦言を呈すると『おむすび』制作陣は翔也にいろんなことをやらせすぎだし、佐野も素直に受けすぎである。入水に始まり、丸刈り、栃木弁やヨン様いじり、砂浜のランニング、球速アップのための体重増加、神戸から大阪まで走る、達筆を披露し、散髪の修業もあった。それもこれも「佐野なら大丈夫」という信頼感があるからだろう。まったく罪な男である。飛ばしすぎて倒れないでほしい。

 夢がかなわなかった翔也は自分の夢を娘に押し付ける毒親にもならず、新たな夢に挑戦する素敵な大人である。ヨン様ことペ・ヨンジュンの『冬のソナタ』は悲劇だったが、全てをなくした“福西のヨン様”は、失ったからこそ一番大切なものを手にすることができたのかもしれない。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、佐野勇斗、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、新津ちせ、大島美優
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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