『俺の話は長い』は“自信満々”なニートが救いになる画期作だった SP版の満は何をする?

『俺の話は長い』SP版の満は何をする?

 2019年に日本テレビ系で放送された生田斗真主演のホームドラマ『俺の話は長い』のスペシャルドラマ『俺の話は長い ~2025・春~』が、3月30日に「前編」、4月6日に「後編」の2週に分けて日本テレビ系で放送される。

 本作は、母親の房江(原田美枝子)と実家で暮らす31歳の岸辺満(生田斗真)の物語。

 満は大学を中退しコーヒー店を起業したが、9カ月で事業に失敗し、それから6年間、ニートとして過ごしていた。

 そんなある日、姉の秋葉綾子(小池栄子)が家をリフォームするため、夫の光司(安田顕)と娘の春海(清原果耶)と共に実家に戻ってくることになる。しばらくの間、満は綾子たち3人と同じ家で暮らすことになるのだが、働こうとしない満と綾子は何かある度に衝突するようになる。

 本作は今どき珍しいド直球のホームドラマだが、見どころは家族ゆえに遠慮なくお互いに文句を言い合う丁々発止の会話劇。

 主人公の満は口だけは達者で、周囲から働くように言われても、あれこれ屁理屈を並べて自分が働かない理由を正当化し、逆に相手を論破してしまう。その話術があれば、どんな仕事に就いても成立するのにと周囲からは一目置かれているが、その能力を仕事に活かさず、せこい小遣い稼ぎばかりして、その日暮らしをしているのが満の日常だ。

 満は『男はつらいよ』シリーズ(1968年〜2019年)のフーテンの寅さんこと車寅次郎(渥美清)のような存在だが、実家に戻ってきてもすぐに喧嘩して旅に出てしまう(けどすぐに戻ってくる)寅さんに対し、満は無職で実家から絶対に出ようとしない。現代の寅さんを描くとニートになるのかと『俺の話は長い』を観ているときは感心した。

 脚本を担当している金子茂樹は、『プロポーズ大作戦』(2007年/フジテレビ系)、『SUMMER NUDE』(2013年/フジテレビ系)、『コントが始まる』(2021年/日本テレビ系)といった作品を手掛けており、この『俺の話は長い』で第37回向田邦子賞を受賞した。

 どの作品も『俺の話は長い』の満のように、何らかの理由で時間が止まってしまった人々のモラトリアム的な日常を描いている。筆者も満のように働かずに実家でニートをしていた時期が人生で何度かあったため、金子のドラマを観ていると当時感じていた実家の居心地の良さと悪さの両方を思い出す。

 金子は1975年生まれで、1976年生まれの筆者より1歳年上だが、彼のドラマを観ていると同世代としてわかると感じることがとても多い。

 金子たち1970年代後半生まれは、平成不況が本格化した1990年代後半に社会に出た就職氷河期世代だ。正社員にはなれずにフリーターや派遣社員になったものも多く、引きこもり、ニート、パラサイト・シングル、子ども部屋おじさんなどと呼ばれ、大人になっても実家暮らしで、経済的に自立できず結婚もしない若者として語られてきた。

 だが一方で自分たちが20~30代だった2000年代は、不況だが物価は安く、贅沢さえしなければ生活に困らず文化的な生活も享受できる程度には日本に豊かさが残っていた。

 そのため、何かきっかけさえあれば一発逆転できると夢を観ることもできた幸せな世代でもある。「働いたら負けかなと思ってる」というネットミームが2000年代に流行したが、あの時代の気分が『俺の話は長い』の満には強く投影されている。

 そんなニートで何も持たない満が、実は誰よりも自信満々で楽しそうに生きており、そのことが周囲の人々にとっての救いになっていたのが本作の魅力だったと言える。

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