『御上先生』は“いま”観るべき作品に 「パーソナルイズポリティカル」がもたらしたもの

『御上先生』において、不正の告発は手段にすぎない。目的はこの国の教育行政を変えることで、その先には一人ひとりの幸福がある。システムが焦点で、内部から変革を促すことが御上の狙いである。日曜劇場定番の下剋上がヒエラルキーを逆転する権力闘争だとすると、内発的で持続可能な試みを志向するのが本作である。実例を挙げるまでもなく、属人的な悪を倒しても、過ちを生む仕組みを改めない限り、新たな権力が取って代わるだけだ。
「Personal is political」はストーリーの縦軸であり、同時にドラマの原理になっていた。個人と社会を貫くワードは、教育と政治を等距離から射程に収めるために不可欠である。バタフライエフェクトは個人の変化が社会を変える今作のダイナミズムを象徴しているが、二項対立と下剋上テーゼの克服という点からも特筆される。御上と古代(北村一輝)がそれぞれ語ったように(「不正を暴くことが目的じゃない」「社会も教育も倒すべき敵ではありません」)、分断を乗り越えて、より良い社会を築くための方途になりうる。
荘厳な「仰げば尊し」が反響する本作の“重さ”は“救い”と表裏一体だ。高卒認定試験を受けた千木良と犯した罪と正面から向き合う弓弦(堀田真由)、娘を支える冴島には、現実を受け入れ、自らの人生を生きる意志が感じられた。内省を通じて自己と対話する「考える力」が「生きる力」になると暗黙のうちに語っていた。
最終話ラストのモノローグ「僕は行く」は第1話冒頭の反復であり、この物語が続いていくことを示している。御上から生徒へのはなむけの言葉も、未来を信じ、祝福するものだった。官僚教師が主人公の『御上先生』は、徹して生徒を主役にすることで学園ドラマの構図を塗り替えた。映画『新聞記者』と連続性を示唆するワードも見られたが、脚本の詩森ろばは同作の問題意識をリビルドし、国家と個人の関係に解像度を上げて斬り込んだ。結果的に『御上先生』は2025年の今もっとも観るべき作品となった。
「日本の教育を変えてやろう」という熱意を持ったエリート文科省官僚が高校教師となり、令和の18歳とともに、日本教育にはびこる権力争いや思惑へ立ち向かうオリジナル学園ドラマ。
■配信情報
日曜劇場『御上先生』
TVer、U-NEXTにて配信中
出演:松坂桃李、奥平大兼、蒔田彩珠、窪塚愛流、吉柳咲良、豊田裕大、上坂樹里、髙石あかり、八村倫太郎、山下幸輝、夏生大湖、影山優佳、永瀬莉子、森愁斗、安斉星来、矢吹奈子、今井柊斗、真弓孟之、西本まりん、花岡すみれ、野内まる、山田健人、渡辺色、青山凌大、藤本一輝、唐木俊輔、大塚萌香、鈴川紗由、芹澤雛梨、白倉碧空、吉岡里帆、迫田孝也、臼田あさ美、櫻井海音、林泰文、及川光博、常盤貴子、北村一輝
脚本:詩森ろば
脚本協力:畠山隼一、岡田真理
演出:宮崎陽平、嶋田広野、小牧桜
プロデュース :飯田和孝、中西真央、中澤美波
教育監修:西岡壱誠
学校教育監修:工藤勇一
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/mikami_sensei_tbs/