花田十輝の“作家性”を『メダリスト』と『ユーフォ』から考える “勝利”よりも大切なこと

確かに彼女にとってオーディションに負けたことは「悔しい」し、全国大会で金賞を獲得したことは「嬉しい」。けれど、久美子にとって重要だったのは、ソリストから外されたことや金賞を獲得したことではなく、自身の「正しい」と思ったことを貫く姿勢ではなかったか。原作のような「ソリストに選出され」、かつ「全国大会で金賞を獲得する」という展開が、個人と集団の目標や結果を一致させることによる「自己実現」的なスポ根ストーリーである、という指摘は理解できる。しかしそうしたストーリーから離れようとした点に、『メダリスト』にも通底している花田十輝的な方向性がありはしないだろうか。すなわち、『ユーフォ』の久美子について花田が重視していたのは、オーディションにおける勝敗に拘泥することでも、公平無私を貫いて優勝を手にすることでもなく、(彼女の姿勢や「正しさ」が本当に善いものであるかという議論はあるとしても)競争の中にあっても勝利への価値づけを後退させ、異なるものに価値を見出す点にあったようにも思えるのだ。
そう考えたとき、やはり筆者はここから花田十輝が持つ「作家性」のようなものを見出してみたい。花田十輝は競争、より敷衍して言えば、逃れられない価値基準、の中に置かれた主人公が、その過程を通して本来得られるべき結果とは別のところにある価値に気づく可能性を絶えず描いているのではないか。そういうふうに考えることができるように思うのだ。それは2024年に大きな話題となった『ガールズバンドクライ』に限らず、10年以上携わっている『ラブライブ!』シリーズにも同じことが言える。あるいは他の例を考えてみれば、『中二病でも恋がしたい!』は、ヒロイン・六花の「中二病」がまさに逃れられないもの(父親の死を克服すること)と対峙する過程で得たものであり、それが肯定されてゆく物語だったはずだ。
こうした花田十輝の描くところの本来とは異なる位置にある価値について、それが一つの言葉で表現することができるものなのかは、いまだ判断がつかない。なんにせよ、2025年も花田十輝の活躍はまだまだ衰えを見せないだろう。今後発表される作品を踏まえながら、引き続き考えてゆく必要がある。
参考
※1. 2024年に112本の脚本を担当したというSNS投稿に、花田自身が反応している。https://x.com/oitan125/status/1889523441482735988
■放送情報
『メダリスト』
テレビ朝日系“NUMAnimation”枠にて、毎週土曜25:30~放送
各配信プラットフォームにて配信中
キャスト:春瀬なつみ(結束いのり役)、大塚剛央(明浦路司役)、市ノ瀬加那(狼嵜光役)、内田雄馬(夜鷹純役)、小市眞琴(鴗鳥理凰役)、坂泰斗(鴗鳥慎一郎役)、木野日菜(三家田涼佳役)、戸田めぐみ(那智鞠緒役)、小岩井ことり(大和絵馬役)、三宅貴大(蛇崩遊大役)、伊藤彩沙(鹿本すず役)、加藤英美里(高峰瞳役)
原作:つるまいかだ(講談社『アフタヌーン』連載)
監督:山本靖貴
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:亀山千夏
総作画監督:亀山千夏、伊藤陽祐
フィギュアスケート振付:鈴木明子
フィギュアスケート監督・3DCGディレクター:こうじ
3DCGビジュアルディレクター:戸田貴之
3DCGアニメーションスーパーバイザー:堀正太郎
3DCGプロデューサー:飯島哲
色彩設計:山上愛子
美術監督:中尾陽子
美術設定:比留間崇、小野寺里恵
撮影監督:米屋真一
編集:長坂智樹
音楽:林ゆうき
音響監督:今泉雄一
音響効果:小山健二
アニメーションプロデューサー:神戸幸輝
アニメーション制作:ENGI
©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
公式サイト:https://medalist-pr.com
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/medalist_PR