北村有起哉が“ふつうのお父さん”を演じていた意味 『おむすび』でついに発揮された名演

『おむすび』北村有起哉、抑制の芝居の意味

 さて、『おむすび』も残すところあと5週。脱稿した根本ノンジが、先輩脚本家・岡田惠和のラジオ番組にゲスト出演していた。岡田のこの番組は、折に付け朝ドラに関連する俳優や脚本家がゲストに出て、朝ドラ経験者の岡田だからこそ聞き出せる話に花を咲かす。根本は千葉県生まれで、錦糸町がテリトリーだったそうだ。千葉から錦糸町、独特の文化圏である。根本の実家は焼き鳥屋であることは、インタビュー記事でも読んだことがあったが、子どものときから焼き鳥屋の手伝いをしていたというのはラジオで私ははじめて聞いた。庶民的な飲食店の空気を体感している人の描く、町中華や居酒屋。たぶん、『おむすび』の料理にハレ感というか、よそ行き感がないのは、そのせいなのかなと思った。

 ドラマに出てくる食事は、家庭料理でもなんでも映えるふうに扱われることが少なくない。でも『おむすび』の食事は映えない。それがなんだか物足りない気持ちで観ていたけれど、世の中には映えない食事もあるのが現実である。誰もが井之頭五郎(『孤独のグルメ』)のようなささやかで優雅な日常は送れない。だからこそああいうキャラやドラマが愛されるのだ。

 結の病院の外科医・蒲田(中村アン)は食事のことを「メシ」と乱暴な言い方をする。管理栄養士の結に、患者に「メシ食わせろ」と。第99話でも「(聖人の)手術には万全の状態で臨みたいからしっかりメシ食わせてくれ」と伝言を残している。人生の豊かさの象徴としての食事ではなく、生きるための食事――それが「メシ」という言葉にあらわれているような気がする。

 B’zの主題歌「イルミネーション」のなかに「噛み締めて呑み込んで」という歌詞がある。生きるために、ただただ、噛んで飲み込まないといけない食事だってあるのだ。第50話の防災訓練のとき、孝雄が結に手渡されたおむすびを無理して食べて、生きることを選んだ。これも、その表れであろう。阪神・淡路大震災で幼い結がもらった冷たいおむすびだって、心底ひもじかったら食べるしかないだろうし、肉体に染みたと思う。たぶん、いま、世界のどこかで、そういう食事をしている人たちがいる。ただ、歯を食いしばって、生きる、その重要性を改めて考えるときが来ているのだと『おむすび』を観て思う。平成を舞台にした『おむすび』がいつしか令和になろうとしている2019年1月。令和とはそんな時代なのではないだろうか。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる