『御上先生』松坂桃李が引く考えるための“補助線” 資本主義に託した希望と絶望

『御上先生』(TBS系)第5話は回想シーンから始まった(※本記事には本編の内容が含まれます)。
放送室で署名の準備をする少年、その足元には機器の配線。少年の名は御上宏太(新原泰佑)、隣で見ているのは弟の孝(小川冬晴)だ。孝は兄を心配するが、宏太は「それやらないと、自分じゃなくなっちゃうから」と答えた。
2022年から高校で金融が必修になった。成人年齢が18歳に引き下げられたこともあり、各校で家計とライフプランニング、金融リテラシーの向上に取り組んでいる。第5話では、3年2組の生徒たちが高校生ビジネスプロジェクトコンクールに出場した。企画で取り上げるのは新しいビジネスプラン。冬木(山下幸輝)が推す投資ファンドと宮澤(豊田裕大)の社会貢献できる製品は実現可能性が薄く、経済合理性に難があった。
御上(松坂桃李)の教育が具現化したのが第4話と第5話だった。第4話では教科書検定という古くからある問題を通じて、教育制度の矛盾を突いた。第5話の金融教育は新しい問題といえる。御上の取り組みは一貫していて、生徒たちに自分の頭で考えることを促した。「考えて」という御上の姿勢は称賛されるものだが、考えるように促されても適切な答えにたどり着くのは容易ではない。考えるための材料が必要だし、一人だと同じところを堂々めぐりしがちである。
そこで御上は補助線を引く。その時に決して自分は前に出ない。第4話で政治性を帯びたデリケートな問題を扱う際に帰国子女の倉吉(影山優佳)に話を振ったが、第5話では全国模試1位の和久井(夏生大湖)が、客観的な立場からビジコンチームの問題点を挙げた。御上が見ているのは生徒だけでなく教師も含まれる。是枝(吉岡里帆)は御上に勧められて生徒の議論をファシリテートした。指名されて即対応した是枝は準備していたと思うし、それを察した御上もよく見ている。そして是枝が話した内容が秀逸だった。
「私これまでずっと、お金って汚いものと思い込んでました。でも信じることの具現化なんだって思ったら、お金って、人間ってすごいなって」
貨幣価値は信用に基づいており、その信用を成り立たせているのは人間。当たり前でありながら、ふだん考えることのない真実を考えることが御上の目指す教育であり、主体性を育む意味と伝えていた。金融の本質を誰にでもわかるように示して、是枝も生徒にバトンを渡す。