『御上先生』は松坂桃李の“第2の分岐点”になる? 飯田Pが“学園ドラマ”に込めた願い

TBS系日曜劇場『御上先生』がいよいよスタートする。日曜劇場には珍しい学園ドラマ、しかも官僚で教師役として松坂桃李が主演を務めるという第1報時から話題を集めていた本作だが、生徒役29名は若手俳優オールスターともいえるラインナップで、松坂以外の大人キャストたちにも錚々たる名前が並んだ。プロデューサーは、『アンチヒーロー』(TBS系)、『VIVANT』(TBS系)、『マイファミリー』(TBS系)をはじめ、極上のエンタメ作品であり、社会派ドラマでもある作品を多く手掛けてきた飯田和孝。今回は学校を舞台に一体何を仕掛けたのか。放送を前に話を聞いた。
御上先生は企画初期段階から松坂桃李をイメージしていた

――企画に着手した経緯、きっかけを教えてください。
飯田和孝(以下、飯田):僕は『3年B組金八先生』(TBS系)第5シリーズ、風間俊介さんが演じた兼末健次郎の回を観て「先生になりたい」と思って受験勉強を始めましたが、撃沈して(笑)。一浪して教育学部で教職課程を取った経緯もあり、いつかは学園ドラマをやりたいと思っていました。その上で、2020年のコロナ禍にあるアーティストさんの動画を見て、そこに映っている高校生たちの熱量のすごさに「こういう人たちが輝けるドラマを作りたいな」と思ったのがきっかけです。いろいろと生きづらい世の中で、「最近は若者の熱がなくなった」とも言われているけれど、世の中に対して声を上げている若者たちもたくさんいる。そこに突き動かされたかたちです。
――社会派なテーマですが、最初から「脚本は詩森ろばさんで」と考えられていたのでしょうか?
飯田:映画『新聞記者』を拝見した後に詩森さんの舞台を観る機会があって、そこから何度か舞台を観させていただいて(テーマを決める前に)「今度、学園ドラマをやりたいんですが……」とお話させてもらいました。詩森さんとやるならば社会派の要素はどうしても入れたいし、僕自身、『金八』に「憧れるのをやめましょう」ができなくて(笑)。憧れは超えられないなと思う一方で、ただの学園ドラマでは勝算がないというか、新しいものを作れる自信がなかったんです。そこで詩森さんと考えた新たな切り口が、官僚の教師でした。

――学園ドラマとはいえ、第1話はかなりダークな印象を受けました。
飯田:ベースは学園ドラマなので、主役は生徒たちだと思っていますし、それは揺るぎない事実です。ただ、世の中、社会、それから企業に生きる人たちをこの学校に投影している、というイメージですかね。僕の中では、学園ドラマに社会派のエッセンスを加えた作品という印象です。
――生徒役29人はオーディションで選出したそうですが、事前に決まっていたキャラクターに合う人を探したのでしょうか。それとも、生徒を選んでから役柄を当てはめていったのでしょうか?
飯田:そこは並行していました。男子生徒の中では神崎(奥平大兼)というキャラクターが一番手になることは当初から想定していたので、まずはそこを中心に決めていく。それから徐々に脚本などができ始めて、キャスト全員が決まる前の段階で、29人のキャラクターが見えてきました。ある程度の人数に絞り込んでからは、オーディションを進んでいる人たちをどう役に当てはめていくか、という作業でしたね。

――物語の中心となる神崎や富永(蒔田彩珠)のキャラクターができた段階で、オーディションは始まっていたと。
飯田:そうですね。男性キャストには御上&神崎、神崎&次元(窪塚愛流)のシーン、女性キャストは富永&東雲(上坂樹里)、神崎&次元&富永のシーンなど、みんなに4パターンくらいのオーディション台本を演じてもらいました。神崎や富永の台本を通して、その人の適性を見定めてキャラクターに合うキャストを選ぶ。そこからキャラクターに肉付けするために、選ばれた人の特性を役柄に注入していく、といった流れでした。
――主演を務める松坂桃李さんの起用理由を聞かせてください。
飯田:松坂さんとは『VIVANT』で初めてご一緒させていただいて、ふだんはすごく柔らかい方なんですが、役柄を演じるときには「どうにでも見える方」というか。演技力はもちろん、ビジュアルも含めて、ちょっと得体が知れない役がすごく上手だと思っていました。いろいろな取材で、松坂さんは御上先生のことを「愛のある人」と表現されていますが、根底にそこがありながらも、やはりどこか掴みどころのない人にしたかったんです。2020年に企画を立て始めたときから、すでに「イメージキャスト:松坂桃李」と書いていて、ついにオファーができることになったのが『VIVANT』の少しあと。「なんとか引き受けてくれ」と祈るような思いでした。
――実際、松坂さんのお芝居をご覧になっていかがですか?
飯田:顔合わせで本読みをしたときには、もう御上先生でした。今回は詩森さんだから(『新聞記者』主演の)松坂さんにオファーしたというわけではなく、このキャラクターを作っているときに「松坂さんとかいいと思うんですよね」とお伝えしたら、詩森さんも「松坂さんいいですね」と。そこからは松坂さんを意識して台本が書かれているので当然かもしれませんが、やはりピッタリでしたね。我々のイメージ以上の御上先生だったかなと思います。

――松坂さんとお話された中で、印象的だったことはありますか?
飯田:このお話を受けてくださると決まってから初めてお会いしたときに、「『孤狼の血』があの時代の松坂桃李の分岐点になった作品だ」とおっしゃっていて。松坂さんとしては、この『御上先生』が第2の僕の分岐点になる、と。「言葉を選ばずに言うと、この『御上先生』を踏み台にしてステップアップしたい」と聞いて、責任重大だなと思いました。僕は“踏み台”って、すごくいい言葉だなと思っていて。もちろん作品を成功させなくてはいけないけれど、役者さんから「そこを起点として、さらにステップアップできました」と言われることが僕ら制作としては何よりなので、その言葉は強烈に印象に残っています。実は、生徒たちに初めて会った衣装合わせのときに、松坂さんの言葉をちょっとお借りしまして(笑)。「みんながこのドラマとどう向き合うのかは、人それぞれです。そして、僕らはこのドラマを成功させたいと思っています。みなさんチーム一丸となって、なんて言いません。みんなこのドラマを踏み台にして、ステップアップしてください」と伝えたことも記憶に残っています(笑)。
――(笑)。松坂さんについて、今までのイメージと違った一面などはありましたか?
飯田:『VIVANT』では『ラーゲリより愛を込めて』で共演された二宮(和也)さんと一緒だったり、役所広司さんとも同じシーンがあったりして、“好かれる弟分”というイメージだったので、今回はどういう感じなのかなとは思っていました。でも、「座長として」みたいなことを言うタイプでもなく、空気感をすごく柔和にしてくれる。「引っ張っていくぞ」というよりは、みんなが自然と前向きになれる空間を生み出せる人だなと感じています。

――文科省の同期・槙野を演じる岡田将生さんの起用理由も教えてください。
飯田:槙野役も、松坂さんにオファーしている段階からすでに「イメージキャスト:岡田将生」と書いていました。このキャラクターは非常に難しいなと感じていて、なぜならこういう相手は世の中のみなさんにも絶対にいらっしゃると思うんです。親友だったり、ライバルだったり、仕事をする上での相棒だったり。そこはすごく大事な存在なので、心がしっかりと通っている人に見えなきゃいけないな、と思っていました。年齢的なことを考えても岡田さんしか浮かばなかったですし、『小さな巨人』(TBS系)でご一緒した際の岡田さんの役との向き合い方が僕はすごく好きで。さらに、岡田さんと松坂さんは仲がいいらしいというのも聞いて。2人の空気感ですよね。もちろんみなさん俳優なので、役柄上の空気感を出すことはできるけれど、そこではない“根っこの部分”にお互いへの信頼がある。敵対だったり、嫉妬だったり、いろんな表現をする上で、岡田さん以上の人はいないんじゃないかなと思いました。