『バンドリ』史上“最狂”演技はなぜ生まれたのか 渡瀬結月が語るAve Mujicaのこれから

渡瀬結月が語るAve Mujicaのこれから

 メディアミックスプロジェクト『BanG Dream!』シリーズ最新アニメ『BanG Dream! Ave Mujica』が、1月から放送中だ。

 謎多き仮面バンド・Ave Mujicaの物語を描く本作だが、メンバー間の軋轢から早くも第1話にしてその素顔が公開。声優陣が担当する同名バンドのリアルライブでも「仮面バンド」としての姿を貫いてきただけに、視聴者を驚愕させた。

 さらにギタリストのモーティス/睦は、自身の家庭が「芸能人一家」だったこともあり、素顔を公衆の面前に晒された心労と、(再び)バンド離散の原因を生んでしまった罪悪感から、別人格の「モーティス」に「睦」としての人格が飲み込まれてしまう。サイコホラーめいたモーティス/睦の内面描写はもはや「バンドアニメ」の域を超え、まったく予測がつかない展開からアニメ放送日には毎週SNSのトレンド入りを果たすほどに話題を集めている。

 こうした展開は1月23日に放送された#4にてピークを迎え、不自然なほどに饒舌になったモーティス/睦がAve Mujicaの解散を阻止しようとするも、あえなくバンドは離散。ステージ上で解散を宣言するとともに、モーティス/睦は発狂・絶叫して幕を閉じるという衝撃展開を迎えた。

 モーティス/睦役の渡瀬結月は、このように極めて特殊なキャラクターをどう演じたのか。心境に迫った。

“子供っぽく”、睦とのギャップを意識したモーティスの役作り

——お聞きしたいことが山のようにあるんですが、とにかくあんなに祥子(オブリビオニス/豊川祥子)に気を遣っていた睦が豹変して「こんな祥子ちゃんじゃ、睦ちゃん、二度と戻ってこないかもね」とか、突然冷酷なことを話しはじめるので本当に恐ろしかったです。演じていていかがでしたか?

渡瀬結月(以下、渡瀬):とても心が痛かったです……。自分が今まで演じてきたのは前作のTVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』やゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』も含めて、ずっと祥子のことが大好きな睦だったので……。でもモーティスもあくまでも睦のために動いていて、彼女を守るうえで祥子が邪魔になってしまうからそういう言い方をしているのかなとも思ったので、とても複雑な気持ちでした。睦を守ってあげたい気持ちはわかるけど、でも睦は祥子のことがきっと大好きだし……、だから#4以降はずっと気持ちに整理がつかないまま演じていました。

——『It's MyGO!!!!!』を観ていた限りでは、まったく予想がつかない展開でした。

渡瀬:明確に睦に複数の人格があるということを知らされたのは、たしか『It's MyGO!!!!!』が終了して『Ave Mujica』のアフレコが始まるタイミングだったと思うんですが、柿本広大監督が今後の演技のために丁寧にいろいろ教えてくださいました。アフレコが始まる前にわざわざブースを移動して「今後の展開ではこうなります」といったことを教えてくださるから、演技をするうえではとてもありがたいと思っています。

渡瀬結月

——みなさんのこれまでのインタビューを拝見している限り、柿本さんがすごく丁寧にキャストさんへの情報コントロールをしているようなお話を耳にします。

渡瀬:とにかくものすごく複雑なお話だからこそ、あるエピソードだけの解釈だと今後に繋がらないようなこともあるので、そういうときに監督から「将来的にはこうなっていくんだ」とお話ししていただけると、演技プランも立てられるし、別のお芝居の仕方も考えられるようになるので、大変ありがたかったです。丁寧に接していただけてすごく嬉しかったです。#3から#5あたりのエピソードでは、事前に完成前の台本を頂いていて、テストとして監督の前でお芝居して解釈に間違いがないか確認していました。

——具体的にどんな演技プランがあったのでしょうか?

渡瀬:モーティスの演技については監督からは「子供っぽく」というディレクションを頂いていて、モーティスは表に出てきたばかりだから、まだ感情に落ち着きがない感じを出してほしいと言われていました。#4の終盤でムジカが解散する流れになったときに「え? 何でそんな話になるの?」とか「やだやだ!! 絶対やだ!!」とか、大人びて説得するような言い方ではなくて、感情が先走ってしまう感じを強く意識してお芝居しました。あとはやっぱり睦ちゃんとのギャップが脚本と絵の時点でできているんですが、それに負けないくらいのギャップを作ったほうがいいなと思ったので、声色や言い回しでもすごくギャップを意識していました。

——祥子に対して、異常に冷たい声で「私は真面目」と言い放った場面は震えました。「渡瀬さんこんな声も出すんだ」と驚きながら観ていました。

渡瀬:あの場面でも「とにかく声を低く出してください」と指示を頂いていて。自分が出せる限りの低い声でずっと「私は真面目、私は真面目……」と何テイクか重ねるなかで、OKが出たのがオンエアされたものになっています。何テイクもやらせていただいたことも人生で初めてでしたし、#3ではひとつのエピソードであんなにたくさんの役を演じたこととか、そもそもあまり声を荒げたり感情をさらけだしたりするようなこともなかったから、すごく大変でした。#4のエンディングが終わったあとの、いわゆるCパートの絶叫も2、3回撮り直していて、声の出し方についていろいろ悩んでいました。でも監督が「喉を壊さないように」と気遣ってくださりなるべく短いテイクでやらせていただき、それと現場ではZoomでアフレコに立ち会われている方もいらっしゃったんですが、私の絶叫がノイズキャンセルでマイクで拾われなかったみたいで(笑)、それも思い出になっています。

——あのCパートも本当に衝撃でした。

渡瀬:なかなか『BanG Dream!』とは思えないですよね……。

——米澤茜さん(アモーリス/祐天寺にゃむ役)がアニメ放送直前特番「Ave Mujica: Ante Masquerade」で「もう『キラキラドキドキ』ではない」と発言していたのを覚えています。

渡瀬:間違いないです。

アニメ放送直前特番「Ave Mujica: Ante Masquerade」

——しかも直前のシーンではにゃむが家族と電話するシーンがあって、あれが結構“ほっこり”する会話だったので落差を感じてより衝撃的でした。にゃむがわりと家族仲がよくて、「上京してがんばってるよ」みたいなことを家族に伝えているのを観て和んでいたんですよね。

渡瀬:『Ave Mujica』にはそういう“上げて落とす”ようなシーンが多いなと思います。#2で、事務所で寝泊まりしてる祥子ちゃんに気付いた初華ちゃんが「家においでよ」と声をかけてあげて、祥子は初華の暖かいお家で寝られるようになったんですが、かと思えば次のシーンでは睦がギターを抱えながら冷たい地下室で一睡もできないまま朝を迎えてしまうシーンに戻ったり……。

——睦のキャラを理解するうえでは、そういう家庭環境や母親の森みなみとの距離感も重要な要素だと思います。渡瀬さんからみて森みなみはどんなキャラクターですか?

渡瀬:自分のことを「みなみちゃん」と呼ばせていたり、お父さんのことも「たあくん」呼びだったり、とにかく“芸能人家族”だなと思います。詳細は伏せますが、みなみちゃんにとって睦は、娘ではあるんだけどどちらかというとライバルのような対等な存在として見ていて、一般的な家族とは違う関係性もお互いに感じているからこそ、こういう呼び方をしているんじゃないかなと思います。

——視聴者の間では睦とみなみちゃんとの関係を心配する声もあります。

渡瀬:そうですよね。自宅の地下室が睦にとって自分の居場所になっていることを知らなかったり、母親として接することができていなかったりする部分はあると思います。

——ちなみに『It's MyGO!!!!!』の#3で祥子が「睦は笑いますわよ」と言っていましたよね。考察好きの視聴者は「あれはモーティスのことだったのか!?」みたいに盛り上がっていますが、実際のところいかがですか?

渡瀬:あの時点ではモーティスのことは知らなくて。だから逆に視聴者の方がそこに引っかかっているのを見て「ああ、なるほど!」と思いました。みなさんのいろいろな考察を見て「たしかに」と思うところは結構あって、そういう反応を見るのも大好きです。

初華には「一番深く、黒いものがあるかも」

渡瀬結月

——今のところ初華(ドロリス/三角初華)と海鈴(ティモリス/八幡海鈴)の内面はあまり描かれていないと思いますが、この2人は今後どうなっていくのでしょうか?

渡瀬:海鈴ちゃんは#1から少し垣間見えていると思うんですが、思ったより“おもしろい子”です。Ave Mujicaの中でも結構ムードメーカー的なキャラだなと思っていて、こっそり先行上映会にも行かせていただいたんですが、そこで海鈴ちゃんの一言でくすっと笑いが起きていたり、あとはまだ先の話ですが私の中でとくに海鈴ちゃんの笑える話があって、“隠れムードメーカー”だなと思っています。

——海鈴は正体がバレたあとの反響に対して、「私も綺麗な顔してますから」とかさらっと言ってしまうのがいいですよね(笑)。

渡瀬:初華ちゃんについては……どこまで言っていいんだろう。全然表には出さないけど、一番深く、黒いものがあるかもしれません。睦ちゃんに関してはとくに序盤から内面が描かれていたり、他の子も「こういうバックボーンがあったんだな」というのがなんとなくわかってきたと思うんですが、初華だけ#3~#4時点ではほぼ何も出ていないと思うんですね。『It's MyGO!!!!!』のころから登場しているのに、なんとなく“祥子ちゃんと過去に出会っていた子”というところまでしか理解できないと思うんですが、それって絶対不自然じゃないですか。他のメンバーは出身地とか性格とかが描かれはじめているのに、初華ちゃんだけ人柄がまだわからないので、それぐらいの深いものがあると思っていただいていいと思います。

——「初華が一番深いものを秘めていそうだ」というのは視聴者のみなさん感じ取っていると思います。また初華のそういう底知れなさは、彼女を演じる佐々木李子さん自身が持つ底知れなさと重なりますよね。ライブでも毎回鬼気迫るものを感じるんですが、共演者として佐々木さんと接していていかがですか?

渡瀬:まずみなさんおっしゃるようにギターボーカルでリードというのが本当にすごいし、自分には到底できないことだなと思います。でも本当に楽しそうに弾いているんですよね。ステージ上ではドロリスに徹しているんだけど、一緒にユニゾンのフレーズを弾いたりしているときになんとなく「今楽しそうだな」という感覚が伝わってきます。ボーカリストとしても「本当にプロだな」と感じるところもあって、とあるフェスに出させていただいたとき、最後の曲が「黒のバースデイ」で大きいかき回しをして終わる演出があったんですが、本人的に不完全燃焼の部分があったようで、かき回しのときに大絶叫していたんですよ。私もそれに痺れてしまって、ステージの一番端まで走っていっちゃったくらい興奮しました。リハよりも本番のほうが輝いている気がします。

渡瀬結月

——アドリブの演出は結構取り入れるのでしょうか?

渡瀬:そうですね。とっさにやるものもありますし、4th LIVEでの「Symbol II : Air」のときには「もう少し動きたくない?」と本番30分前くらいに話し合って急遽パフォーマンスを増やしたりしていました。たしかそのときのりこち(佐々木李子)が、結構長い間のんたん(高尾奏音)とずっと顔を合わせてパフォーマンスしていたのが印象に残っていて、あれはファンの方にとってもドキドキするシーンになったのではないかなと思います。

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