『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』を観ろと叫びたい! ドロドロとした感情が痛烈に胸を穿つ

 この文章を衝動に赴くままに書いている。頼む。『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』を観てくれ。アニメを観ていて、ここまで心が締め付けられたのは久しぶりだ。涙がこんなに流れたのも。仮にこの記事が全く理路整然としていないものになったとしても、これだけは理解してほしい。『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』は素晴らしいアニメだ。そしてなにより、より大勢の人に観てほしいアニメだということを。

「壱雫空」(アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」オープニング映像)

 そもそも自分は『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』をリアルタイムで第1話から追っていたわけではない。『バンドリ』シリーズについても、ぼんやりと「ガールズバンドの『HiGH&LOW』」みたいな知識しか持っていなかった。そんな自分が『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』に興味を持ったのは、8月の頭の頃だったと思う。

 核心を突いたネタバレや具体的な評判を聞いたわけではないが、なにか静かな熱のようなものを『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の方向から感じた。まるで知らない町を歩いてる時に聞こえる祭囃子のような「なにかやっているぞ」という小さな高揚感。その瞬間、『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』に関する全ての情報をシャットダウンした。これはエンタメを大量に摂取しているとよくあることだが、作品情報を詳しく調べなくても直感的に「これは自分の好きな作品だ」と理解できることがある。そのため、自分はどんなビジュアルのキャラクターが登場し、それぞれがどんな性格で、どんな物語なのかを知らないまま本作の視聴を開始した。

 バンドの解散から始まる重々しい導入。瓦解した人間関係。やたら生々しい会話。主要キャラクターの一人が「メッセージ ブロックされてる 確認方法」で調べたりするし、バンドメンバーとして誘うときの文句に「顔と数字」みたいな台詞が飛び出したりする。かなり衝撃的で、ドロドロとした、それでいて痛烈に胸を穿つアニメ。それが『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』だった。本作について「静かな熱のようなものを感じた」と書いたが、放送されたエピソードを全て観た今ならわかる。確かにこれは「観てくれ」と思わせるアニメだ。確かにギスギスしている。ドロドロもしている。だからこそとんでもなく面白く、SNSでこの熱が波のように広がっていったのがわかる。

【CM】アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」キャラ別紹介CM・千早愛音編

 本作は第1話からかなり凄いが、なにより強烈に惹かれ、自分にとって『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の凄さを象徴してくれたのが千早愛音(立石凛)の存在だ。『HiGH&LOW』シリーズといえば「全員主人公」を謳っていることで知られているが、多分『バンドリ』シリーズも概ね似たような感じなのではないかと思う。そんな『HiGH&LOW』シリーズにもコブラ(岩田剛典)のような顔となるキャラクターがいる。そして本作におけるコブラは高松燈(羊宮妃那)と千早愛音の2人である(多分)。その一人である千早愛音さん。『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の顔。おまけにピンク髪ときた。彼女の素晴らしさを一言で説明するとしたら、まったくもって“最高の俗物”ということだろう。

 俗物という単語で辞書を引くと「世間的な名誉や利益を追及する人物」とある。それが千早愛音だ。彼女は自己顕示欲が高く自分が目立つことを好むが、それを表面に出しすぎると嫌われることを知っており、表面的なコミュニケーションを重ねることで目立つポジションを確立しようとする外面の良い女の子。その一方でポロっと本音が飛び出たり、やたら図太かったりするせいであまり自己顕示欲を隠せてなかったりするちょっと迂闊な女の子。『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の物語は彼女が東京の羽丘女子学園に転校し(まさに主人公の行為だ)高松燈とクラスメイトとなったことで動き出す。

 女の子がたくさん出てくるアニメでこんなにも俗物で、有り体に言えばレイヤーが比較的我々に近い存在が物語を引っ張っている。時々日本のアニメ作品のキャラクターの感情や動機に“純度の高さ”みたいなものがあると感じていたが、千早愛音はその純度が低い。バンドをはじめる理由が「みんながやっているから」でしかなく(バンドリ世界の東京はおそらくガールズバンドが群雄割拠しており、東京でバンドをしないのはSWORD地区で不良をやっていないようなものだ)、そこまでガチにやりたいわけではない。それでいて「やるなら一番目立つギターボーカルがいい」という自己顕示欲があり、クラスメイトの燈をバンドに誘ったのも「クラスの変わった子とバンドやれば話題になるかも」という打算的なもの。そんな生々しくてどうしようもない愛音の思考を1話では明け透けに開示していく。

 第1話の愛音で一番好きなシーンが、以前組んでいたバンドが解散した原因を「自分のせい」と言った燈に対し「そっかーそれは辛いなー」と全く感情のこもっていない言葉で同情するところだったりする。立石凛さんの絶妙すぎる演技に笑ったし、カラオケの音楽を選ぶ片手間で言っているのも酷い。でも同時にそういう安っぽい同情とか表面的なコミュニケーションって時には大事だよなとも思った。前々から創作における“安っぽい同情”に対する潔癖なまでの拒否感に対して疑問を抱いていたが、本作で千早愛音は堂々と安っぽい同情を示すので良かった。その上で燈の表情を一瞬観察した後「また駄目にならないように頑張ればよくない?」「一回駄目になっても、やり直せるって思わないと」としっかりと自分の考えを自分の言葉で伝えることができる。

 コミュニケーションにおける「必要な手順を踏む」という努力をこなすことはそれ自体迂遠で薄っぺらなものだったとしても、努力は努力であり誠実さ他ならない。無論表面的なコミュニケーション一辺倒では駄目だが(逆に言えば全ての発言が直截的すぎても駄目だ)それができる上に、なおかつ自分の考えを伝えることのできる千早愛音は俗物なだけではなく、確固たる意志と対人関係における誠実さと、本質的な思いやりを持った人物だということがわかる。まあその後に燈の「一生、バンドやってくれる?」という発言を困ったように笑ったり、再び話し合った時に「重い」と明け透けに言ったりするので全てが完璧なわけではなく、その一方で「一生」という言葉を適当に流さず正面から考えたりするので前提としては俗であり、それでいて誠実。そんなグラデーションのような人物像が浮かび上がる。

 千早愛音は俗物であると同時に『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の主人公たる強さをもった人物であり、俗物を軽んじがちなフィクションの世界において唯一無二の存在として光り輝いている。もちろん全く見事な俗物として作中では本当にどうしようもなかったりするが、そんな人が第11話くらいになるとあまりにも大人物すぎて「この人は……光……!」となるので是非そこまで観てほしい。

【CM】アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」キャラ別紹介CM・高松燈編

 そして『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』ではそういった生々しくてどうしようもないキャラクターが大勢いる。高松燈もその一人だ。彼女は昔から世間とのズレを感じて生きてきた孤独な少女だが、その苦しみを詩のようなもので表現する才能を持っている。また、彼女の紡ぐ歌声は「これは自分の詩だ」と思わせるほど他人の心を震わせる。燈は愛音のような俗物ではなく、むしろ浮世離れした性格である。天才的な感性を持ったボーカリスト。そんな彼女はコミュニケーションに対して酷く臆病であり、また自分が所属していたバンド「CRYCHIC」が解散してしまった過去を引きずっている。彼女はいつも誰かと会話する時は途方に暮れたような顔をしている。燈の臆病で、ちょっと生々しい側面が出るのが第2話のとあるシーンだ。

 朝の教室。燈は机の上にペンギンの絆創膏を並べている。これは愛音が「かわいい」と言ってくれたもので、明らかに愛音に声をかけてもらうことを目的としている。つまり燈は「愛音と話したいけど自分から話しかけるのは怖い。だから愛音がかわいいと言ってくれたペンギンの絆創膏を机の上に並べて話しかけられるのを待っている」という状態だ。もちろん愛音は誠実なコミュニケーションができる人物なので燈に声をかけるが、すぐに別の友人との会話に移る。ペンギンの絆創膏に触れられなかったとわかるや否や、落胆した表情でいそいそと絆創膏をしまう。コミュニケーションとしては自分の臆病さを盾にして他人の優しさに期待する卑怯なものだが、同時にいじらしさも感じる見事なシーンだ。また、以前起きた「机にペンギンの絆創膏を並べていたら愛音から声をかけられた」という現象を意図的に再現しようとしているのが生々しく、そしていじらしい。同時にこのシーンでは燈のバンドに対する本心とスタンスをペンギンの絆創膏で雄弁に語っているのだが、それは本編を見ればわかることなので割愛する。ひとまずここで理解してほしいのは燈は受け身のコミュニケーションをする臆病な子ということと、愛音のことが大好きな子ということだけだ。

 無論、燈は臆病なだけではなく、主人公たる強さを持った人物である。一度掴んだ手を離さないような頑固さ。すなわち(ここぞというところでの)意思の強さによって愛音や他のキャラクターも救われたり振り回されたりする。本作を通して見ると、燈が大切なものを離さないように頑迷に手を握りしめて、愛音がそれを引っ張り上げる役割を担っていることがわかる。燈と愛音はまるで違う2人だが、だからこそパズルのピースのようにぴったりと嵌り合っている。「この2人だからこそ」本作にはそう思わせるシーンがいくつもあり、胸を打つ。幸せになってほしい。

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