いま作られるべきテレビドラマとは 『べらぼう』『ホットスポット』など2025年冬ドラマ展望

2025年冬ドラマ座談会

2025年1月ドラマの期待作は?

『ホットスポット』©日本テレビ

ーー2025年も始まりましたが、冬クールの期待作を教えてください。

田幸:一番気になるのはバカリズム脚本の『ホットスポット』(日本テレビ系)ですよね。『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)もシュールな世界観でしたが、宇宙人が出てくるなんてびっくりですよね。

成馬:市川実日子さんが主演というのもいいですよね。夏帆さんを筆頭にバカリズム脚本のドラマは演技力に定評のある女優を多数そろえて、日常的な芝居をみせるのが上手い。

木俣:バカリズムさんはコントの人だから、間合いっていうものをとても大事にされている。俳優たちが彼の間合いで芝居していて、独特の味が生まれている。

成馬:演技ってテンポとかトーンに作家性や同時代性が現れるんですよね。今の生方美久作品が体現している静かなトーンが生み出す微温感のある芝居の先駆者だったと思うんで、どんな芝居が見られるのか今回も楽しみです。

木俣:私はNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華夢噺〜』に期待しています。第1話を観て、森下佳子さんの構成に安心感がありました。『JIN-仁-』(TBS系)や『大奥』(NHK総合)でこの時代に詳しいでしょうし。ディテールをしっかり抑えたうえで、登場人物を生き生き動かしている。江戸中期、商人が元気な時代で、戦国、幕末という定番の時代とは違う大河ドラマなので『光る君へ』のように、これまでとは違うファン層が入ってきて盛り上がりそうです。何より主役を演じる横浜流星さんが凄く良かった。

『べらぼう〜蔦重栄華夢噺〜』写真提供=NHK

田幸:横浜さん、NHKドラマの出演はゼロだったのが、いきなり大河の主演に。これは例にないことですよね。

木俣:NHKドラマって、いわゆるNHK的な演技ができる人たちで固めがちな印象なのですが、横浜さんはNHKドラマ経験がないし、民放ドラマには出ているけれど、藤井道人監督の映画的な文脈の芝居の人という感じがあるので大河ドラマでそれがすごく新鮮で良かった。それこそ『アンメット ある脳外科医の日記』や『海に眠るダイヤモンド』のような「そこに生きてる」かのような実在感が凄いんですよ。なんか芝居をしている感じじゃなくて、この世界でちゃんと活き活きと息をしているような。走っている。そこにいる。という感じ。

田幸:ドラマだとかつてはキュンキュン要員的に使われることが多かった気がしますが、映画だと藤井道人さんとのタッグの社会派のシリアスで暗いトーン作品に出演することが多くて。『べらぼう』で演じる役はそのどちらの路線とも違い、きっぷが良く、明るく、所作も美しくて新鮮でした。どうなるか楽しみです。

木俣:明るい役はこれまでほとんどないですよね。ラブストーリーでも影のある役が多いので「べらぼうめぇ!」みたいなセリフもあるのですが、様式的だったりあざとかったりする明るさじゃなくて、素直に健やかな感じが良かったです。明るすぎず、暗すぎず、ふつうの青年という。そういう雰囲気大河ドラマに求めている人が入ってくると思うし、そうなってほしい。それがだんだんカリスマプロデューサー(江戸のメディア王)に変化していくのでしょうけれど。

成馬:『海に眠るダイヤモンド』もそうでしたが、今、ドラマを作っている人の一つの流れとして、ゲームやアニメに匹敵するようなしっかりとした濃密な世界観を箱庭のように作って、役者がそこで生きて暮らしているかのように演技させたいみたいな、独立した虚構空間を構築したいという意思があるのかもしれないですね。

木俣:『光る君へ』も大石静さんは、自分はラブストーリーを主軸に描いたつもりはなかったけど視聴者がそう思ったのは吉高由里子さんと柄本佑さんの演技が素晴らしかったからだと取材でおっしゃっていました。きちんと芝居を見せることで物語に没入できる映像表現を目指している作り手が増えているんだと思います。それは作り手がそうしたいと言うよりは視聴者が求めているのかなと。余計なことは考えたくないというか。例えば、新海誠さんのアニメ映画は風景描写が凄くリアルじゃないですか。私たちの知っているあの街だって実感できるところにキャラクターがいて、距離感を含め、、この世界で何が起こってるのかがよくわかる。いわゆる自分事のように感じられる。そういうものをいま、みんな求めているのかなって気がします。

成馬:現実が複雑で掴みどころがなくて、いつ何が起きるか分からない混乱状態にあるからこそ、距離を取ってフィクションの世界に引きこもりたいってのが、今のドラマファンの気持ちなのかもしれないです。一方で、現実に意地でも食らいついていこうという『ふてほど』や『虎に翼』の流れの作品もあると思うのですが、その意味で楽しみなのは香取慎吾さんが主演を務める『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)です。選挙に立候補する元テレビ局報道マンだったフリージャーナリストの中年男性の物語ですが、プロデューサーが野木亜紀子さんと『フェイクニュース  あるいはどこか遠くの戦争の話』(NHK総合)や『連続ドラマW フェンス』(WOWOW)を作った北野拓さんなんですよ。フジテレビに移っての初めてのプロデュース作品になるのですが、北野さんが得意とする膨大な取材をベースにした社会派ドラマのテイストが、フジテレビのドラマだとどうなるのか楽しみです。

木俣:『エルピス ー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)みたいなドラマになるのかなと思ったら、第1話は家族もののほうが主軸のように感じました。『海のはじまり』や『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)のような、男性の子育てをひとつの軸にして、政治の話も並行して進む、なかなか凝ったものになりそうな……。タイトルがコメディっぽいけど、副題はシリアスものぽいのも、どっちに比重がいくか予想がつかないものを目指しているのでしょうか。

成馬:ホームドラマの要素の方が全面に出ていて同じ香取慎吾主演の『薔薇のない花屋』(フジテレビ系)の現代版みたいな印象ですね。家族の問題を入り口にして政治にどう接続できるかが今後の見どころですかね、。今、政治を題材にしようと思ったら、2024年は都知事選や兵庫県知事線みたいな出来事がたくさんあったのでネタには困らなそうですけど、逆に現実がポピュリズム政治になって悪い意味でバラエティ番組みたいになってるので、そこにフィクションでどう立ち向かうは、凄く問われるだろうなぁと思います。

田幸:脚本家は一人じゃないですね。映画『ハケンアニメ!』などの政池洋佑さん、『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系)、『舟を編む』(NHK BS)、『しずかちゃんとパパ』(NHK BS)などで近年丁寧な心理描写が注目されている蛭田直美さんなど、旬の方を起用していらっしゃるなと思いました。それに、男性に見えづらい「ケア労働」に着目しているのは北野さんならではの視点だな、と。これが男性プロデューサーの作品ということに希望を感じます。

成馬:4人体制ですね。おそらく北野さんがショーランナー的な役割を果たすのかなぁ。どういう形で作るのかも楽しみです。

木俣:4人の脚本家さんの個性で、ファミリーラインと政治ラインの見え方が変わっていくのでしょうかね。

女性が“ふざけられる”日が来るまで

ーー最後に2024年のドラマで一番気になったことを教えてください。

木俣:今年、とても興味深いと感じたのは、妊娠する女性の話が多かったことです。それも、当たり前の進路としての結婚、妊娠、出産、育児という流れではなく、『燕は戻ってこない』も『光る君へ』も『わたしの宝物』(フジテレビ系)も托卵を描いていたんですよ。もしかしたら、ケータイ漫画の不倫ものみたいなエグい感じのものと同じく、人気の題材なのかもしれませんが、それだけではなく、現代の社会問題を描いているようにも見えて。女性が子どもを生むことは当たり前のことではなく、心理的な葛藤や経済的な負担が生じることを物語にしているんですよね。

成馬:少子化が進んでいく中で、出生率をどうやって上げていくかって問題は政治的にも一番触れづらいところで、何度も政治家や有識者の発言が問題になりましたよね。国が強制的に子供が生まれやすくなる環境を作ろうとすると、女性に負担がかかる性差別的な構造を作り出すか、『燕は戻ってこない』の代理母出産みたいな資本主義とテクノロジーの進歩によって促進するか、移民を積極的に受け入れるかみたいな選択が迫られるわけで、どれを選んでも政治的な混乱が起きるわけですよね。『VRおじさんの初恋』(NHK総合)や『団地のふたり』(NHK BS)みたいに、とりあえず自分だけなら生きるんだけど、それだと種族としての人類が危うくなるみたいな危機意識や子孫を残さなくていいのだろうか? みたいな後ろめたさもあるわけですよね。

田幸:女性の作り手が増えてることが大きいと思うんですよね。脚本も制作統括とかプロデューサーとかも女性が増えてるから、まだ描かれてないところっていうところで女性の妊娠出産、描くものって言ったら、どうしても朝ドラが定番でしたけど、逆に『虎に翼』は出産のシーンは描かず、いきなり赤ん坊が生まれて抱いてましたからね。「出産は美しいもの」みたいな偏見・思い込み・美化に対して「違うだろ、そんな甘いもんじゃないだろう」っていう思いを持っている女性の作り手が結構いるから、そういう心情が反映されているところはあると思います。実際、出産は命がけだし、事故もたくさんある医療行為ですから。

成馬:もっと言うと、子供を作ったことによる経済的負担は明らかに増えるっていうのをみんなわかってるわけじゃないですか。子育てが無理ゲーってみんな言いますよね。学生の時に妊娠してしまうと、将来の進路に関わってくるという身も蓋もない現実を描いたのが『あの子のこども』と『海のはじまり』ですよね。

木俣:そういう実生活の無理ゲーなところをそのまま描くとと、成馬さんが『VRおじさん』が見られないというのと同じで、女性としては生々しすぎてキツイので、違う世界に置き換えて、子供を生み育てる心情をを物語化する時に、夫と違う人の子供を生むとか、そういう、少し飛躍したところに行くしかないのかなと、今の話を聞くと感じましね。そう思うと、まだまだこのジャンルには可能性はあるかもしれない。

田幸:今まで女性が描かれてなかったところに鉱脈があるんだと思うんですよ。その一つの例が、妊娠出産で、今まで美しく描かれてきたものをリアルに描くことに鉱脈がたくさんあるということを、女性の作り手たちが盛んにやり始めたんだろうなという気がします。私がベスト10に上げたものって、女性の作り手の作品が多くて、『光る君へ』や『海に眠るダイヤモンド』のメインは女性ですし、他の作品も本当に女性が作ってる作品がすごく多くて、時代の変化が2024年に見えたなという気がしてます。

成馬:逆に僕は『ふてほど』みたいな、おじさんの逆切れというか、今の社会に感じている居心地の悪さを描いてる作品が増えてるなぁと感じたんですよね。その逆ギレに居直ってしまうとアメリカのトランプ現象みたいになるので、絶賛はできないんですけど映画『ジョーカー』で描かれたような弱者男性の悲哀には共感するし、そこを入り口にして表現できることはたくさんあると思うのですが、油断するとマイノリティに対する攻撃性と結びついてしまう危険性もある。宮藤さんの作品はそこのバランスを必死で取ろうとしているのが『ふてほど』の後で『新宿野戦病院』をやるみたいな感じで、作りながら考えている所が見えて、そこは作家として信頼しています。

ーー生方美久さんを筆頭に女性の若手脚本家の名前は次々と出てくるのですが、男性の若手脚本家はあまり名前が上がらないんですよね。

成馬:ドラマの新人賞からはあまり男性脚本家の出てこないですけど、映画からは阪元裕吾さんが出てきて『ベイビーわるきゅーれ』を監督していて、舞台からは加藤拓也さんや三浦直之さんが出てきてNHKの「よるドラ」で先鋭的な作品を描いていますよね。ただ、女性脚本家の方が社会派エンターテインメント作品を書こうとしている状況は気になりますね。昔だったら井上由美子さんの独壇場だったことを、色んな女性脚本家が分担してより先鋭化させている。

木俣:そこにまた女性の辛さを感じるんですよね。自分たちが社会的に抑圧されてるから、その問題点に向き合って、物語化することで、同じことを思う人たちと共有したいのだろうけれど、作品から背景にある抑圧が滲み出ているのがなんか辛くて。男性作家は、社会問題をテーマに描く人もいるけれど、もっと自由に好きな趣味的なことも描いているじゃないですか。あるいはコメディにして笑い飛ばしてしまうとか。男性が好きなことができるのは、結局、男性が社会で優位だったからという現実が透けて見えちゃうんですよね。だから極論ではありますが、女性がもっとふざけられるような作品が出てきたらいいなぁと思うんです。

田幸:でもふざけるテンションに至るまでには、まだまだ解決しなきゃいけない問題が多すぎますね。

木俣:ですよね。いつか女の人がふざけられる世界が来てほしいなということです。シリアスな社会派ドラマもいいですけど、もっと違うジャンルのものを見つけてほしいな。

成馬:女の人がフェミニズム的な思想をバックボーンにした社会派ドラマ以外のことをやろうとすると、凄く難しいってことですよね。

田幸:日本はむしろ遅いじゃないですか。海外の流れが5年遅れで入ってきてるぐらいなので、まだまだそこ抜けるにはそうそう時間かかりますね。

成馬:そう考えると大石静さんの『光る君へ』って絶妙なバランスでしたよね。どれだけ史実を踏まえて政治的なテーマを描いても、根底にあるのは物語じゃないですか。僕は最終話手前の太宰府編が凄く好きで、ああいうエピソードを平気で入れてくる剛腕があるから、史実に負けてないんだと思って。周明(松下洸平)の扱いとかほんと最高ですよね。あのエピソードがあることによって、この作品は物語なんだって部分が際立ったように感じる。

木俣:三谷幸喜さんがこの間、大河ドラマの特番で、年表じゃないのだというようなことをおっしゃっていましたが、大石さんもまさにそうで、歴史じゃないんだ、歴史物語なんだっていう強い意思を感じますね。いま、私は、とにかく愉快なものを書ける女性作家に出会いたいです。

田幸:もしかしたらバカリズムさんみたいなコントを書く側から出てくるかもしれないですね。

木俣:お笑いの方は自由ですよね。それこそ社会問題を笑いに変えることができるはずで。女性お芸人さんに笑いを追求してほしい。と同時に、Netflixの『阿修羅のごとく』を観て、向田邦子さんは社会問題とか女性問題とか笑いとかシリアスとかそういうことでなく、あくまでひとりの人間としての個性や生活を洗練された眼差しと筆致で描いていたなあと感じました。気っ風がいいというのかな、こういうセンスのいい作家は、渡辺あやさん以降、現れてない気がして……。

田幸 それと、テレ東でスタートした『風のふく島』は、東日本大震災の原発事故による避難区域「福島12市町村」を舞台に、実在の移住者たちにフォーカスしたオムニバスなんですが、ブラックコメディあり、ファンタジーありという異色のテイストで。企画プロデュースが『直ちゃんは小学三年生』(テレビ東京)シリーズや『姪のメイ』(テレビ東京)などの青野華生子さんなんです。日本の社会派ドラマはストレートでウェットなものが多いなか、青野さんは日本人が弱いと言われるブラックコメディやファンタジー、風刺など、一風変わった作品を次々に手掛けていて。渡辺あやさんの『今ここにある危機とぼくの好感度について』や、青野さんの作品のようなブラックコメディがもう少し日本のドラマや文化に馴染むと良いなと思っています。

成馬:深夜ドラマの『トーキョーカモフラージュアワー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)はヒコロヒーさんが脚本を担当されるそうですね。原作モノのオムニバスコメディなので、どういう感じになるのかはわからないですけど、女性お笑い芸人がコメディドラマを書くという流れには期待したいですね。

前編:テレビドラマは今どう語られるべきか? 『ふてほど』『アンメット』など2024年重要作を総括

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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