『グランメゾン・パリ』は今の時代を映す美食映画の逸品に 木村拓哉が背負う映画化の必然

あの『グランメゾン東京』(TBS系)から5年。木村拓哉と仲間たちがスクリーンに帰ってきた。現在公開中の『グランメゾン・パリ』は、2025年の今という時代を映す美食映画の逸品となった。
天才料理人の尾花夏樹(木村拓哉)が、パリで運命的な出会いをはたした早見倫子(鈴木京香)とともにミシュランの三つ星獲得を目指す『グランメゾン東京』。2019年10月から12月にかけて放送され、仲間たちと夢を追う姿が“大人の青春”として反響を呼んだ。
劇場版では、尾花が倫子や京野(沢村一樹)、相沢(及川光博)と立ち上げたレストラン「グランメゾン・パリ」が舞台となる。尾花たちがパリにいる理由、またグランメゾン東京のその後は2024年12月29日に放送されたSPドラマで描かれた。新生グランメゾン東京を祥平(玉森裕太)たちに任せて、尾花と倫子はパリへ向かう。第二の大人の青春が幕を開ける、はずだった。
映画は、尾花たちが舌の肥えたフランスの美食家に料理を提供する場面からはじまる。予定していた食材が手に入らない。パティシエは打ち合わせと違うデザートを持ってくる。厨房に響き渡る怒声。既視感のある光景だ。「グランメゾン・パリ」は危機的な状況にあった。
物語の舞台がパリだったことには必然性がある。ドラマ版の2015年、アレルギー食材混入事件によって尾花が料理長を務める二つ星レストラン「エスコフィユ」は倒産。アレルギー食材のナッツが混入した原因は、当時見習いだった祥平の不注意によるものだったが、それ以前から厨房の雰囲気は最悪だった。自らの料理に自信を持つあまり他人の意見に耳を貸さず、周囲と衝突してばかりの尾花に、いずれ破局が訪れることは明白だった。全てを失った尾花は倫子と出会い、彼女の夢をかなえるため日本に帰国。数々の困難や確執を乗り越え、最高のチームが結集して三つ星の夢をかなえた。
そんな尾花の目指す星がパリにあることは当然かもしれない。尾花が失ったのは料理人としてのキャリアや名誉だけでなく、かの地における信用や人間関係、フレンチの本場で腕をふるう自身の生き方だったからだ。連ドラ序盤の流れから考えて、パリに戻ることは運命づけられていたと言える。『グランメゾン東京』は倫子の物語であり、尾花は最強の助っ人として倫子の夢の実現に尽力する構図だった。今度は倫子が尾花の夢を実現するために奔走する。『グランメゾン・パリ』は尾花が主役の物語なのである。