『劇場版 忍たま乱太郎』は大人男性も唸る忍者アクション映画 土井先生ときり丸の絆に涙

『劇場版 忍たま乱太郎』は大人男性も唸る名作

 大ヒット公開中の『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』。この作品を「子供向け」と決めつけてスルーしてしまうのは、あまりにももったいない。また筆者は、常々妻から「大概の女性の初恋の人は土井先生」と教えられていた。公開に先立ちあの『an・an』の表紙を土井先生が飾ったりもして、大人の女性人気が高いことも伺える。だが、蚊帳の外になりがちな「大人の男性」にも、ぜひ観てほしい。この作品は、超一級の忍者アクションでもあるのだ。

※本作は『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』のネタバレを含みます

 物語は、一年は組の教科担当教師・土井半助が、消息を絶つところから始まる。そして、土井先生探索中の六年生の前に、敵対組織・ドクタケ忍者隊の新しい軍師・天鬼が現れる。その顔は、土井先生と瓜二つであった……。

 この天鬼と六年生たちのバトルが、凄まじい。すでにプロの忍者と遜色ない実力者揃いの六年生たち6人に対し、天鬼は1人。だが天鬼は、彼らを圧倒してしまう。また天鬼の攻撃は、ほとんど“殺し”にかかっている。特に恐ろしかったのは、潮江文次郎を喉への手刀からの入り身投げで、竹の切り株の上に倒そうとした場面だ。すんでのところで外れたが、鋭利な竹槍状態となった切り株の上に倒れたら、命にかかわる。切り株は、倒れた文次郎の左わきをかすめて突き出しており、もう少しずれていたら心臓が串刺しである。その直後のトドメへの動きも速く、立花仙蔵と食満留三郎のフォローがなければ、文次郎は命を落としていただろう。

【映画本編映像】天鬼 vs 六年生の戦い!|『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』

 ネタバレをしてしまうが、天鬼の正体は、記憶をなくした土井先生である。普段の優しく胃が弱い土井先生からは、このような戦い方は想像がつかない。タソガレドキ忍軍の諸泉尊奈門を相手取るときも、あえて致命傷を与えないチョークや出席簿で戦っている。だが、「忍術学園に赴任する前の」土井先生ならどうか。

 土井先生は元々地方豪族の出身だが、幼い頃に一家を滅ぼされて天涯孤独の身となっている。その後はある忍者集団に属していた。そこを脱走して捕まりかけているところを、忍術学園教師である山田伝蔵に救われた。土井先生は、過去のことをほとんど語らない。「半助」という名前も山田先生が付けた偽名であり、本名は明かしていない。おそらく、語れない過去、語りたくない過去を、抱えているのだろう。抜け忍を容赦なく殺す集団に属していたのだ。土井先生自身も、幾多の「汚れ仕事」をこなしてきたのだろう。

 本編で何度も、紅い彼岸花のイメージカットが挿入される。それは、両親や一族を殺された幼き日の土井先生の記憶かもしれない。あるいは、昔の組織での汚れ仕事をこなしている際の記憶かもしれない。どちらにせよ土井先生の深層心理にあるものは、紅い彼岸花のような「血」の記憶である。

 原作者の尼子騒兵衛は、「普段の土井は(中略)自身にリミッターをかけているのかもしれない」と語っている(『月刊アニメディア』2月号より)。天鬼は、土井先生の人が変わってしまったような姿ではない。常に返り血を浴びて生きていた頃の、本来の土井先生の姿だ。忍術学園に赴任したばかりの頃の土井先生は、安藤夏之丞先生に「ここは学校です。それ(殺気)はなるべく引っ込めるようにしてください」と注意されている。それ以来、殺気を消すことを心がけ、戦闘力にもリミッターをかけてきたのだろう。だが記憶をなくすことで、そのリミッターは外れてしまった。

 天鬼と同じくギャグアニメの枠にとどまらない、忍者本来の怖さや凄みを体現した男がいる。タソガレドキ忍軍の組頭・雑渡昆奈門である。彼はもはや、ギャグアニメのキャラではない。本来ならさながら、古くは山田風太郎や白土三平、今なら今村翔吾の世界の住人である。大火傷の後遺症で今でもおしとやかな横座りしかできない体でありながら、その戦闘力は作品中トップクラスである。

 彼の、山田先生の息子であるフリーの売れっ子忍者・利吉とその仲間たちとの戦いにおける強さには、鳥肌が立った。先述の天鬼と六年生たちとの戦いは、竹と竹を飛び交い、空中からも仕掛ける天鬼に対し、六年生たちは地べたから応戦することしかできなかった。だがこの戦いは、雑渡、利吉たち、ともに木と木を飛び交いながら戦っている。そのことからも、利吉たちの方が六年生たちよりも力量が上であることがわかる。だが雑渡は、彼らを圧倒してしまう。殺さないよう、手加減までしながら。

 高所で足を掴んできた桜木清右衛門(CV.大西流星)の顔を、何度も踏みつける。本来ならそのまま墜落死させるところを、腕を掴んで利吉に投げつける。そして若王寺勘兵衛(CV.藤原丈一郎)を羽交い絞めに捉え、そのままドラゴン・スープレックス状態で落下する。あの高さから頭から落とせば確実に殺せるが、途中で解放し、木に投げつける。利吉に対しても、当て身(ボディブローからのアッパー)で瞬殺する。これも苦無などを使えば容易に殺せたところを、あえて当て身にとどめている。

 また、後に雑渡が毒を塗った手裏剣を天鬼に投げようとした手を、利吉に背後から掴まれるシーンがある。一見利吉のファインプレーにも見えるが、どうも違和感がある。そもそもあれだけ実力差のある利吉が雑渡の背後を取り、ましてや腕を掴むことなどできるとは思えない。これは筆者の想像でしかないが、あのシーンの雑渡は、利吉にわざと背後を取らせたのではないか。

 タソガレドキ忍軍は中立的な立場ではあるが、別に忍術学園の味方ではない。天鬼(土井先生)がタソガレドキにとっても脅威となるのなら、忍務として殺さねばならない。だが個人的に忍術学園の善法寺伊作や鶴町伏木蔵を気に入っている雑渡は、彼らを悲しませたくはない。だが忍務に情を絡めてしまっては、立場上示しがつかない。だからこそ、「忠実に忍務を果たす予定でしたが、思わぬ邪魔が入りました」ということにしたのではないか。去り際に、部下の押都長烈に「これで殿に言い訳が立ちますな」と言われているし、雑渡自身も「恨みを買わずに済んだ」とこぼしている。

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