『おむすび』根本ノンジの脚本はなぜ挑戦的なのか 俳優の“人間らしさ”を炙り出す余白

『おむすび』の脚本はなぜ挑戦的なのか

 あっという間の2年、結(橋本環奈)は栄養学校を卒業し、星河電器の社員食堂で栄養士として働くことになる。朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』の第11週は就職活動が描かれた。

 沙智(山本舞香)と佳純(平祐奈)は順調に内定をとる。沙智は「まんぷく食品」で佳純は東京の病院。

 J班で決まらないのは結とモリモリこと森川(小手伸也)のみ。ほかのクラスメイトもほぼ内定が決まったのであろう。担任は結を心配する。それにしてもこのドラマ、驚くほど、高校でも栄養学校でもクラス全体が描かれない。主人公とそのわずかな親しい人たちのみしか描かない徹底ぶりである。それはさておく。

 面接に落ち、届くのはお祈りメールばかりで落ち込む結だったが、翔也(佐野勇斗)の先輩の澤田(関口メンディー)が会社に専任の栄養士を雇用したいと考えたことから就職のチャンスを得る。

 結が翔也のために作った献立の出来がよかったと澤田が感じたから声がかかったのだが、結は意外にもこの絶好のチャンスを渋る。彼氏を支えるため栄養士になりたいというきっかけは軽かったが、栄養士学校の2年の間に結は少し成長したようで、彼のいる会社に入るのはさすがにずるくないかと後ろめたさを覚えるのだ。聖人(北村有起哉)も彼のいる会社に入るのは甘えだと言うが、結の背中を押す人物がいた。愛子(麻生久美子)とモリモリである。

 愛子は、自分も聖人と結婚したことで、床屋と農業と、夫の仕事を手伝ってきた。自発的にやりたいものではないとはいえ、その生き方が「甘え」だとは決して思っていない。愛子はそういう意見を結に率直に伝えると同時に、ハギャレンたちに密かに連絡をとり、神戸に呼ぶと、結を励ましてもらう。

 愛子の狙いどおり、ハギャレンたちは結の悩みを軽くする。彼女たちだって誰かに頼っているというのだ。「甘えてよくね」とルーリー(みりちゃむ)は言う。ギャルに限らず、人は大なり小なり、誰かに助けてもらっているものであるし、自分たちも助けを求められたら助ければいい。持ちつ持たれつなのである。

 ハギャレンたちとおしゃべりし、カラオケであゆを歌ってすっかり気持ちが楽になる結。〈輝き出した僕らを誰が止めることなどできるだろう〉あゆの歌の歌詞どおり、信じた道を邁進すればいい。ところでハギャレンたちの交通費は愛子が出したのだろうか。いや、仲間が呼んだらすぐ駆けつけるのがハギャレンの掟であるし、みんな働いている(いや、ひとりは大学生か)から神戸に来る交通費は結のためなら出せるのかもしれない。

 結の決心の決定打はモリモリである。モリモリは密かに再婚相手とお弁当屋を開業しようとしていたが、それが正式に実現することになるまで伏せていた。自分の話をよくしている印象のあったモリモリがことこの件に関してはなぜ黙っていたのか。それは就職が決まらず悩んでいる結を慮ってのことだった。確かに、全員の内定が決まって、自分ひとりだけ決まらなかったらかなり病みそう。モリモリ、年の功というか、優しい。

 46歳のモリモリが、会社を辞め、離婚し、居酒屋でバイトしながら栄養学校に通い、やがて再婚相手をみつけ、お弁当屋開業までたどりついた。年齢に関係なく、やりたいことをやる道は誰にも拓かれているという希望をモリモリは語る。だからこそ、結にもやりたいことをやってほしいと言うのだ。

 たくさんの人たちに励まされ、結は、栄養士になって彼を支えたいという、本来の目的を突き進むことにする。第12週からは社会人編である。翔也との結婚の話も上がっていて、結の生活環境がまた変わっていきそうだ。

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