楠木ともり、“第2章の始まり”を語る 「自分が素直に表現したいことに徹する」

楠木ともり、“第2章の始まり”を語る

 1月7日より放送が始まったTVアニメ『Unnamed Memory』Act.2 。2024年4月に放送されたAct.1で楠木ともりは、謎の少女・ミラリスを演じた。明らかな重要キャラクターとしての登場でありながら、極めて限定的な情報しか開示されず未だ謎に包まれつづけている彼女に、楠木はどう向き合ったのか。声優/アーティストとして活動し、自身の演じてきたキャラクターには“二面性”があるという楠木ともりの全貌に迫った。

あらゆるジャンルの要素が無駄なく詰め込まれた『Unnamed Memory』

楠木ともり

——楠木さんが演じるミラリスはまだ謎に包まれているというか、端的に情報がほぼないキャラですよね。

楠木ともり(以下、楠木):そうなんです。インタビューでしゃべることがあるかちょっと心配で(笑)。

——ただ、ミステリアスな役柄のイメージがある楠木さんの声優像をとらえるうえでは、実は本作は重要なのではないかと思っています。楠木さんは『Unnamed Memory』に対してどんな印象をお持ちですか?

楠木:いろいろな要素が無駄なく詰め込まれている印象があります。恋愛要素もあるし、自分がどう生きていきたいか決断を迫られるようなドラマとしての一面、たとえば、Act.1では、主人公のオスカーとティナーシャが王族と魔女という立場にどう向き合うかなど、いろいろな部分が無駄なく、一つひとつ大事な要素として繋がっていってる作品だなと思っています。主に恋愛面の部分ですごくドキドキした作品で、それもありきたりな物語ではないのでアフレコも結構難しいところがありました。世界観を理解するところから苦労していて、一つひとつの要素や伏線をしっかり見ておかないと後の感動が薄れてしまう、緻密な作品だなと思っていました。

——王道らしい設定のようで、意外と不思議な作品ですよね。

楠木:そうなんです。Act.1では、王族と魔女という、立場の異なる2人の恋愛を描くという王道ストーリーなのかと思いきや、Act.2以降の展開を掘り下げていくと、「おや? この作品ちょっと違うぞ」と感じる部分があるなと思います。

——Act.2のエピソードはすでにいくつか観させていただきましたが、冒頭から衝撃的な展開で、物語の舞台ががらっと変わっていることに驚きました。それに加えてミラリスはAct.1での出番も伏せられ気味だったわけですが、どのように役作りに挑んだのでしょうか?

楠木:私にとっては、役作りの方法には大きく分けて2パターンあります。一つは演じるキャラクターの考え方や意志を汲んでいくパターンです。ミラリスについてはまだ彼女がどういう意図で動いていたか言えない部分が多いのですが。もう一つが、その物語においてキャラクターがどういうポジションにいるかを意識するパターンで、今回のミラリスについてはこちらの方向で役作りをしました。特に前半は情報があまり出ないので、そこに私の解釈を入れすぎて演技すると、演出としてのミスリードがうまく機能しなくなってしまうことがありえるんです。ミラリスはAct.1の時点ではすごくミステリアスな敵といった印象で、不思議な悪役の雰囲気で少し登場する程度です。Act.2以降の展開で明かされるように本当はそうではない一面も持っているのですが、とにかくAct.1時点の物語ではミラリスはそういう印象を与える人物として登場するという演出意図を大事にしていました。そういう点ではある意味演技はしやすかったのですが、Act.2で彼女の内面が掘り下げられていくなかで、そのAct.1で作られた印象を解体していって、もう一度ミラリスの新たな一面をどう作っていくかということを改めて練るのは少し難しかったですね。

——興味深いお話です。そういうふうにミラリスが特殊なキャラクターであることに加えて、Act.1終了からAct.2放送開始までには半年間の期間が空いています。その中で他作品やアーティスト活動などご自身にも変化があると思いますが、多少時間が経ってからもう一度同じ役に入り込むことについて、楠木さんはどう向き合っていますか?

楠木:私は結構リセットされてしまうタイプで、なるべく間が空かないほうがうれしいとは思います。それでももちろん当時の気持ちや演技は継承したいので、過去に放送されていた部分を見返したりしてなるべく近づける努力はしています。

楠木ともり

——楠木さんの演じてきたキャラクターに共通点は感じますか?

楠木:よく“二面性のあるキャラクター”を演じることが多いとは言われます。『GGO』のレンのように作中で声色が大きく変わるキャラもいれば、「一見明るいんだけど実は暗いバックボーンを持っている」とか、のちに予想外な一面が明かされるようなキャラクターの役はたしかにすごく多くて。周りと同じ意図で動いているかと思ったら、実は誰にも言わずに自分の中だけに抱えているものがあったり、後から何かが種明かしされるキャラクターを演じることは多いかもしれないですね。

——僕は『デカダンス』のナツメで楠木さんを認知したのですが、彼女も作中世界で“バグ”と呼ばれる存在だったり、『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』のレンも元々は身長コンプレックスからオンラインゲームの世界に入っていたり、周囲の人物とまるっきり行動原理が違うようなキャラクターは楠木さんに似合うような気がします。

楠木:実は昔から現場では「声が暗い」と言われることが多いんです。ディレクションでも「もうちょっと明るくできますか」と言われがちで、昔は「なんでだろう」と思っていたのですが、そもそも声色自体がそこまで明るいわけではないようで、アニメキャラクターの声として聞いたときにやっぱり少し暗く感じてしまうようです。ヒロインを演じるうえでは明るさは欠かせないので、「どうしたら明るくなるんだろう」と特に新人の頃は模索していました。ただ、もちろん明るいトーンのコントロールも上達して慣れていったらいいなと思いつつ、おそらく元の声が暗く聞こえるから“取り繕った明るさ”のようなニュアンスは消しきれないかもしれないとも思っています。だから後になって「実は暗い背景がありました」みたいに明かされるキャラクターには、もしかしたらチューニングが合うことが多いのかもしれないですね。

——そういう意味では『Unnamed Memory』のミラリスも今のところ謎キャラではあるんですが、楠木さんらしいキャラなように思います。

楠木:ミラリスはAct.1では種明かしされませんでしたが、悪いことを考えているキャラクターではないんです。初登場時の描き方からすると何かを企んでいるような暗い部分から始まりますが、「実はそうじゃなかったよ」という形で逆に明るい側面が描かれていくパターンの種明かしになっていくので、そこは新鮮だったと思います。

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