『アンメット』から『朽ちないサクラ』へ オファーが絶えない杉咲花の“静と動”の芝居

オファーが絶えない杉咲花の“静と動”の芝居

 2023年12月に封切られた映画『市子』以降、杉咲花の季節がずっと続いているーー。

 主演を務めているドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系/以下、『アンメット』)が間もなく最終回を迎えるが、時を同じくして主演映画『朽ちないサクラ』が公開。前者で演じる川内ミヤビから、後者で演じる森口泉へとバトンが渡っていく。あなたはこの季節をどのように過ごしているだろうか。

 『アンメット』で杉咲が演じているミヤビは、丘陵セントラル病院の脳外科医だ。ある事故によって脳を損傷した彼女は記憶障害を抱えており、過去2年間の記憶がないうえ、今日のことも明日にはすべて忘れてしまう。現状を維持するのが精一杯であり、脳外科医の仕事への情熱にフタをし、看護助手として日々を過ごしていた。が、この物語の最大のキーマンであるアメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)の後押しや、ミヤビの主治医である大迫紘一(井浦新)をはじめ、救急部長の星前宏太(千葉雄大)、看護師長の津幡玲子(吉瀬美智子)といった面々のサポートにより、再び彼女は脳外科医の道に向き合ってきたのだ。

『アンメット ある脳外科医の日記』©︎カンテレ

 この作品はいわゆる“医療ドラマ”なのだから、扱っているのは生命だ。そこでは誰かの人生が、絶えず揺さぶられることになる。多くの医療ドラマではそういった生命や人生が揺さぶられる瞬間を、劇的/激的なシーンとして描いてきた。ところが本作はどんなに緊迫した状況であっても、それを静的に描き続けている。視聴者層が幅広いプライムタイムのドラマ作品の演出としてはかなり挑戦的だ。しかしこれが功を奏しているのが現状。これまでの多くの医療ドラマとは一線を画す、静かな緊張感に満ちた作品となっている。

 ここで要となるのが、作り手たちの信頼関係。制作サイドと演者たちの厚い信頼関係がなければ成立しなかっただろう。座長である杉咲は、これをここまで率いてきたわけだ。

 朝ドラ『おちょやん』(2020年後期/NHK総合)にて主演を務めた杉咲は、同作にて国民的俳優として不動のポジションを築いたといえる存在だ。「朝ドラ」は視聴者層の幅がどんな映画やドラマよりも広い。まさに国民的ドラマ。そのため、物語の展開やキャラクターがすべての視聴者に伝わるパフォーマンスが俳優には求められる。昭和の名優・浪花千栄子をモデルとした主人公・竹井千代は非常に活発な人物であり、ここで杉咲は“動的”な演技を完全に物にしている俳優だと知らしめた。そのいっぽう、冒頭に記した映画『市子』での演技は抑制の効いた“静的”なもので、ときおり表情や声に表れる感情のうねりに圧倒されたものである。

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