『猿の惑星/キングダム』は“映像で語る” 神話的名作の完全新作をIMAXで体感せよ

『猿の惑星/キングダム』は“映像で語る”

オスカー常連WETAが作り上げた最高峰のVFXに唖然とする

 『猿の惑星/キングダム』は何といっても、シリーズ史上最高のVFXクオリティが魅力的だ。ノアと仲間が村の通過儀礼としてワシの卵を取りに行く冒頭のシーンから全編を通して、“上下”を強く意識した空間表現がすごい。ノアたちが森になったビルの上から下を覗くシーンでは、思わず座席に座っているのにもかかわらず、足がすくんでしまった。メインキャラクターが猿であることを映像として最大限に活用しつつ、「そんな猿でも高いところでは足がすくんでしまう」ことを描くことによって、彼らに親近感を持たせる。人類が退化し、自然が戻った世界の構築だけでも目を見張るものがあるのに、さらに没入感を高める仕組みをいくつもこなしているのが本作の凄みだ。それを実現させたのは、他でもないあのWETAである。

 WETAとはニュージーランドのVFXスタジオで、あの『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや、ジェームズ・キャメロン監督作『アバター』の成功の立役者であり、アカデミー賞の常連スタジオだ。もちろん、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』に始まるリブートシリーズも彼らが手がけてきた。『猿の惑星/キングダム』を監督したウェス・ボール監督は本作のVFXを「今までに見たことがないほどのもの」と宣言し、「最高のVFXではありながらもストーリーや演技がなければ意味がない」と来日舞台挨拶でも熱弁していた。

 実際にキャラクターに息を吹き込むのは役者たちである。彼らはパフォーマンスキャプチャーのスーツを着て撮影に挑むわけだが、その高度な技術によって些細な目や鼻の動きを捉えることができる。本作のパフォーマンスキャプチャーは実際の演技をし、それをデジタルでメイクアップするという方法。なんと今回はそのデジタル編集に1年半をかけ、そのハイレベルな技術が信憑性のあるキャラクター造形を可能にした。本作の猿たちの表情の細やかさといったらない。もはや人間のキャラクターよりも感情表現が豊かなのだ。それを映像の中に持ち込んだ役者の繊細な表現が演技の中で見られるからこそ、たとえCGIで作られたキャラクターであろうと信じることができるし、感情が揺さぶられる。それがWETAの手がける魔法なのだ。

 猿のキャラクターや主人公のノアに寄り添える映像設計としてもう一つ大きな要素として挙げたいのが、カメラの高さである。IMAX作品の多くは大画面で映されるが故にワイドな引きのショットが多い。しかし本作はどちらかというとクロースアップが多く、そういったところからも「世界観」だけでなく「そこに住む者たち」であるキャラクターの感情表現を捉えることを優先しているのがわかる。そしてただのクロースアップではなく、ほとんどのシーンが猿たちの身長の高さで撮られているのだ。人間の背丈よりも低い彼らの目線で描かれる世界はスリリングで、こういったところにも猿のメインキャラクターに共感しやすくなる設計が散りばめられている。それが、『猿の惑星』シリーズに通底するテーマ……人を人たらしめるものとは何か、人間の弱さと強欲さ、社会や文明に至る普遍的なものに関わってくる。私たちは本作に登場する猿を通して「人間性とは何か」を見出すのだ。その問いに答えるのが、映画の最後で交わされるノアとノヴァの会話、そしてノヴァが隠し持っていた物とノアが彼女に渡したアイテムである。やはり『猿の惑星』シリーズらしく、本作はあいも変わらず衝撃的なラストを用意していた。

 もちろん登場人物を取り巻く環境のディテールも細かいし、大画面で観ると圧倒的な引きの場面も本作には数えきれないほど存在している。何が優先されて映像に映されるかはもちろんシーンごとに切り替わっていくが、確実に言えるのは映画館で観るのと家のテレビやスマートフォンで観るのとでは、本作の映像体験の差はおろか、映画そのものが違う作品のように思えてしまうほどだろう。これをIMAXで観ずして、他に何を観るのだろうか。本作の監督であるボールが、すでに『ゼルダの伝説』の実写化作品を手がけることが決まっていると知って、安心と同時に期待が胸に溢れるばかりだ。

■公開情報
『猿の惑星/キングダム』
全国公開中
監督:ウェス・ボール
出演:オーウェン・ティーグ、フレイヤ・アーラン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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