2023年を席巻! 『【推しの子】』×YOASOBI「アイドル」のあまりにも幸福な関係

 2023年のテレビアニメシーンを振り返ると、話題作はそれなりに豊作の1年だったが、主題歌を含めた大ヒット作となると『【推しの子】』は突出していたと言えるだろう。

 もともと拡大枠での放送を想定していた第1話を、テレビに先駆けて劇場公開というイベントを仕掛けたが、公開当時よりも実際のテレビオンエアによって大きく注目を集めたアニメだ。動画工房制作のクオリティ高い映像はもとより、YOASOBIが歌うオープニングテーマ「アイドル」のPOPさは人気に拍車をかけた。

 YOASOBIがアニメ主題歌を担当したのは『【推しの子】』が初めてというわけではなく、2021年放送の『BEASTARS』第2期が最初のケースだ。しかしこの時は、楽曲は評価されていても、決して大反響という形ではなかった。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のオープニングテーマ「祝福」の勢いが本作にも伝搬したこと、さらに『彼女、お借りします』のかわいいキャラクターデザインで注目を集めていたアニメーター平山寛菜が、同じ要職で『【推しの子】』にも参加、そして何よりも原作漫画の持つポテンシャルの高さなど、複数のプラス要素が絡み合っての大ヒットだったように思う。

 漫画『【推しの子】』の原作パートを務める赤坂アカは、自身もラブコメ作品『かぐや様は告らせたい』を執筆していた漫画家で、ストーリーテリングの面白さは折り紙付き。そして『【推しの子】』作画パートを担当する横槍メンゴは、6年に及ぶ長期連載作『クズの本懐』でヒットを飛ばした実績がある。『かぐや様は告らせたい』と『クズの本懐』、どちらもアニメ版と実写版が制作された共通点があり、それだけ沢山の支持を集めた作品ということだ。そんなヒットメーカー同士がタッグを組んだ漫画だけに、面白くないわけがない。

 青年医師が元の記憶を持ったまま、自分が応援していた女性アイドル、星野アイの子どもとして産まれてくる「転生ネタ」に加え、アイの死に絡んだミステリーを紐解く「芸能界ネタ」の二重構造が本作の特色だが、それに加えて話の導入部が衝撃的なところも読者とアニメ視聴者を惹き込んだといえる。星野アイを親しみやすく好感の持てる人物として描き、受け手側のアイへの感情移入を促したところで、彼女は物語から突然退場してしまう。テレビアニメ第1話を拡大時間枠で放送し、ここまで描ききったことで壮大なプロローグとしたスタッフの判断力に舌を巻くしかない。主人公がいなくなって、この先はどうなるの!? と思った矢先に、本来の主人公アクアとルビーのドラマが始まるわけだ。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

 通例、映画やドラマ、アニメなど映像作品とタイアップした楽曲のPVは、歌唱するアーティストのイメージビデオ的なクリップが一般的だったが、ここ数年はアニメ映像を使ったものも増えてきた。『【推しの子】』の主題歌「アイドル」がヒットした要因として、楽曲自体の良さはもちろんであるが、『【推しの子】』本編スタッフが手がけた映像と一体化したミュージックビデオの素晴らしさも大きかったと思われる。それも本編から抜き出したシーンを編集したものではなく、曲に合わせて全編を新たに制作したアニメだ。新宿、渋谷ほか都内の大型ビジョンに、このミュージックビデオが流れた時に足を止めて見入る人が多かったことも忘れがたい。「アイドル」のミュージックビデオを目にしたことで、テレビアニメ『【推しの子】』の視聴を始めた人も多いのではなかろうか。

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