『女優は泣かない』が描く“真のプロフェッショナル” 再起にもがくヒロインに励まされる
プロフェッショナルとは、何だろう。定義は数あれど、一つに絞るとなると難しい。求められた業務を完璧にやりきることか、はたまた期待を上回る仕事をすることだろうか。それらももちろん大切だが、映画『女優は泣かない』を観た今、「誰よりもその仕事が好きである」という想いこそが、本物のプロフェッショナルの証である気がした。
蓮佛美沙子演じる女優の梨枝は、スキャンダルで仕事をなくし、渋々受けた密着ドキュメンタリー製作のために帰郷する。しかし、撮影に来たのは、バラエティ班のAD・瀬野咲(伊藤万理華)ただ一人。限られた予算に、帰って来たくなかった田舎町。この全く“映えない”仕事に、バレないように進めたい梨枝だったが、小さな町に広まった噂は家族の耳にも入ってしまう。こうして、互いに崖っぷちの境遇にいるヒロインたちの、再起をかけたリスタートの物語が始まる。
『女優は泣かない』は、良い意味で二面性を持つ作品だ。物語の前半部分は梨枝と咲の売り言葉に買い言葉のやりとりが中心で、コメディ要素が強い印象を受けるかもしれない。しかし後半に進むにつれて、物語は新たな側面を見せ、登場人物たちのリアルな努力が観客の心を動かす。公開時のコメントで、有働佳史監督は「『どこかの誰かの物語』ではなく『いつかの自分の物語』として楽しんでもらいたい」と述べているが、本作はまさに観る人に自分自身の過去を思い起こさせる魅力がある(※)。
では『女優は泣かない』は、なぜ「いつかの自分の物語」として私たちに響くのだろう。
それはきっと、この作品が、夢に向かう登場人物たちが直面する現実の困難を巧みに描いているから。何かを成し遂げようとする途中で、家族の問題や上司の無理な要求など、努力と無関係の外的要因に頭を悩ませた経験は誰にでもあることなのではないか。
咲はドラマ制作の夢を追いながらも、今回ドキュメンタリー制作に挑むことになるのだ
が、この「本当にやりたいことにまだ取り組めない苦しさ」もリアルだ。辿り着きたい目標や叶えたい大きな夢を胸に、“そうじゃない”仕事に精を出さなければならないのが、社会で生きるということでもある。
咲の上司ほど無茶な依頼は稀だが、異動の希望を通すために目の前のタスクに向き合うエピソードそのものは、現実世界でもそれほど珍しくはない。咲を演じる伊藤万理華の不服そうな表情の演技を観ていると、つい「あんなに素直にやりたくないという感情を表に出せたら……」と思ってしまう。
そんな咲の不器用な真っ直ぐさが梨枝を変えていく一方で、梨枝自身が自らの才能に限界を感じつつあるところも辛い。力量が足りないから出来ない。経験もない、それでもやりたい。心の奥にたぎる梨枝の仕事への情熱は、スクリーンのこちら側の心を鷲掴みにする。
他人の助けだけでは変えられない、果てしない壁。当人だからこそわかる、あと一歩の行き詰まりと梨枝がどう向き合っていくのかも、この映画の大きな見どころになっている。