『女優は泣かない』が描く“真のプロフェッショナル” 再起にもがくヒロインに励まされる
こうして、夢を叶えるために見据えなければならない山積みの問題を、梨枝と咲と一緒に一つずつ解いていく。するといつしか、この作品が描いて来た道のりが、観客がこれまでに歩んできた道のりのように感じられてしまうのだろう。『女優は泣かない』というタイトルも秀逸で、“泣けない”女優の梨枝の成長を観た後に振り返ると、考えさせられるものがあった。
監督が『女優は泣かない』の舞台に選んだのは、生まれ育った熊本・荒尾市。熊本の伸び伸びとした自然の風景と、家族の絆というテーマの掛け合わせは非常に相性が良い。
序盤から中盤にかけて、梨枝は自分の故郷を受け入れられないような素振りを見せるのだが、それでも地元のみんなは、彼女を東京で活躍する大スターとして歓迎してくれる。話を聞かない節があったり、どうしようもなくお節介な側面もあるのだが、それも全て梨枝に会えた喜びからなのである。このうっとうしいような、くすぐったいような“故郷”との距離感に、疲れた心がじんわりと癒されていくような感覚を抱いた。
メインテーマからは逸れるかもしれないが、ふと帰れば「おかえり」と誰かが笑顔で出迎えてくれる幸せも、本作の描く柔らかな光の一つだろう。
女優とそれを撮るADの間に芽生えたものは、友情ではなく信頼である。2人は決して、親友になったわけではない。だからこそ、彼女たちはエンドロールのその後も、時には小学生のような口喧嘩を交わすのだろう。
それでも、カメラが回っている時にはきっと違った顔を見せるのだと思う。出来なくても、限界でも、正直に自分の想いと向き合い続けること。それが、彼女たちが本作で突き詰めた“真のプロフェッショナル”なのだから。
参照
※ https://www.joyuwanakanai.com/
■公開情報
『女優は泣かない』
全国公開中
出演:蓮佛美沙子、伊藤万理華、上川周作、三倉茉奈、吉田仁人、青木ラブ、幸田尚子、福山翔大、緋田康人、浜野謙太、宮崎美子、升毅
監督・脚本:有働佳史
制作協力・配給:マグネタイズ
配給協力:LUDIQUE
主題歌:在日ファンク「注意 feat.橋本絵莉子」
©2023「女優は泣かない」製作委員会
公式サイト:joyuwanakanai.com